小林秀雄のあはれといふこと

しみじみとした趣に満ちた言葉の国日本。
そんな国のいとおもしろき言の葉を
一つ一つ採取し、
深く味わい尽くしていく。
それがこの項の主な趣向である。



其の百六拾伍・・・ミニ

オーシツクツク オーシツクツク

「ほほう。ツクツクボウシか。
 どうやら、夏も幕を閉じようとしているようやな」

クヤシイシクシク クヤシイシクシク

「なんや今の鳴き声は!
 いったいどんな蝉や!!」

悲しげな調べに驚倒した小林先生は、
裸足のまま縁側を降りると、
庭の大木の後ろに回りこんだ。
木にしがみついて悲壮な音を奏でていたのは、
弟子の北小岩くんであった。


小林 「お前そこで何しとる」
北小岩 「先生、わたくしは
 不条理なる屈辱を受けました」
小林 「話してみい」
北小岩 「昨日のことなのです。
 駅の階段を上っていたところ、
 前を行く超ミニスカートの
 女性がおりまして」
小林 「俺も経験があるが、
 のぞいてもいないのに
 スカートの裾を押さえられると
 頭にくるよな」
北小岩 「そうなのです。
 のぞこうなどという気持ちは、
 生えたての陰毛ほども
 ございませんでした。
 しかし、こちらも前を見なければ
 こけてしまいます。
 おまけにわたくし、
 近頃エロ本を熟読しすぎて
 視力が低下しております。
 ですから一段づつ、
 階段を凝視しながら歩いておりました。
 まったく見る気はなかったのですが‥‥。
 裾の手が気になって、
 つい視線がそこに。
 するとその女性が
 般若の形相で振り向き、
 『何見てんのよ!
  このどすけべ短小包茎野郎!!』
 と大声で騒ぎたてました」
小林 「それは災難やな。
 そういう女に限ってブ」
北小岩 「わたくしも激昂し、
 言い放ってしまいました。
 『なぜ似合いもしないのに
  そんなミニを履いているのですか。
  裾を押さえて歩くぐらいなら
  最初から履かなければいいでしょう。
  お言葉を返すようですが、
  わたくしにも選ぶ権利がございます。
  あなたのようなブ』。
 その時でした。
 女がわたくしを蹴倒したのです。
 わたくしは階段の下までころげおち、
 急所を足蹴にされました。
 もうくやしくてくやしくて」
小林 「どんなに見たくないものでも、
 見てしまうことはある。
 例えばぶさいくな男が
 階段を歩いているとする。
 目の前に男のたまきんが
 ぶらぶらしとったら、
 後ろの女だってつい見てしまうやろ。
 北小岩のケースは、100%女が悪い。
 これは思い知らせてやらにゃあかんな」
先生は以前から
ミニスカ裾押さえ女のことを
心よく思っていなかったので、
いち早くその対抗策に着手していた。
小林 「見てみい。
 これが俺の開発したミニパンツや。
 たまきんの部分が
 はみ出るように細工してある。
 まあ、
 生を直接ご覧にいれるのは犯罪なので、
 薄い布を被せとるがな。
 その部分は金粉でぴかぴかや。
 どや、これなら思わず
 目が吸い寄せられてしまうやろ」
北小岩 「かんぺきです!」
二人はリベンジを果たすべく、最寄駅に向かった。
待つこと2時間。
北小岩 「あそこを歩いている人です!」
小林 「よっしゃ、わかった。
 目にモノ見せてくれるわ」
先生はダッシュをかけ、
女の前にポジションをとった。
ゆっくり階段を上がる。
ミニパンツからはみ出した金の玉袋が
ゆらゆら揺れる。
女は思わず注視してしまった。
小林 「あんた今、
 俺の玉袋舐めるように見たやろ!
 どすけべ女が」
「何言ってんのよ、
 このど変態!」
女は憤怒し、
薄い布で包まれた玉袋を
力まかせに引っ張った。
小林 「こっ、こら!
 その手を離さんかい。
 やっ、やぶれる!」
ビリビリッ!
布が裂かれ、中から血色の悪いたこ焼きが
ふたつこんにちはをした。
「駅員さん、
 この人私にワイセツなものを
 見せつけるんです!」

いかつい駅員が、全速力で駆けつけてきた。
万事休す‥‥。

先生のやり方は決して正しいとは思えない。
後ろを歩く男にのぞくなとばかりに裾を押さえ、
厳しい視線を投げかけるミニスカ女性たちにも
問題はあるだろう。
見たくないのについ見てしまう。
嗅ぎたくないのについ嗅いでしまう。
人間はそのような生き物なのだから。

小林秀雄さんへの激励や感想などは、
メールの表題に「小林秀雄さんへ」と書いて
postman@1101.comに送ってください。

2007-08-26-SUN
BACK
戻る