KOBAYASHI
小林秀雄、あはれといふこと。

しみじみとした趣に満ちた言葉の国日本。
そんな国のいとおもしろき言の葉を
一つ一つ採取し、
深く味わい尽くしていく。
それがこの項の主な趣向である。



其の百七拾弐・・・年金


ミャ〜オ

北小岩 「おや、タマが遊びに来ておりますね。
 彼ももう16歳を
 超えているのではないでしょうか。
 人間の年齢に例えてみると、
 80ぐらいでございましょうか」
弟子が湯たんぽのように
あたたかなまなざしで見つめていると、
タマは庭石ですべって頭をぶつけ、
ふらふらしながら塀の穴から帰っていった。
北小岩 「数年前に比べると、
 だいぶお年を召されたようですね。
 他人事、いえ猫事ではございません。
 わたくしもおじいさんになったら、
 いったいどんな生活が
 待っているのでありましょうか」
老後の自分を想像した北小岩くんの顔に、
みるみる暗雲が垂れ込めてきた。
北小岩 「どう考えても明るい情景が浮かびません。
 先生に相談に
 乗っていただくしかございません」
ちょうどその時、
師はご満悦な表情で裏本の見本市から戻ってきた。
小林 「どないした?
 ゲリ混じりの屁でも
 嗅がされたような顔をして」
北小岩 「先生は老後のそなえは
 いかがしておりますか」
小林 「ばっちりやな。
 若い頃からちゃんと加入しとるからな。
 ある年齢に達したらウハウハや」
北小岩 「国民年金のことでございますか?
 それでしたらわたくしも
 きちんと払い続けておりますが、
 年金は様々な問題が
 表面化しておりますし、
 少子化であまり頼りにならないのでは
 ございませんか」
小林 「国民年金だけでは、心もとないやろな。
 ちょい待てや」
先生は縁台から部屋にあがり、
黒光りする引き出しの中から
大切そうに何かを持ってきた。
北小岩 「それは年金手帳でございますね」
小林 「そう見えるか。
 目ん玉もっこりさせて、
 よく見てみい」
北小岩 「はっ。
 確かに年金手帳ではございません!
 え〜と。
 『年金玉手帳』と書かれています!」
小林 「そうや。
 俺は二十歳過ぎからずっと、
 『国民年金玉』に加入しとるんや」
北小岩 「それはいったい
 どういうものでございますか?」
小林 「俺ぐらいモテると、
 夜の生活で何人もの女性に
 随喜の涙を流させまくっているわな。
 毎月毎月その実績がポイントになって、
 保険料のように納付されていくわけや。
 65歳になったら、
 納付ポイントに応じて
 絶世の美女がやってきて、
 たまたまと如意棒を
 かわいがってくれるという寸法や。
 気持ちのいい老後が保障されると、
 まあそういうこっちゃ」
北小岩 「国がたまきんの面倒を
 見てくれるのですか!
 そのように有益なシステムがあること、
 わたくしまったく存じませんでした。
 確かに毎月支給される年金で
 生活のベースをかためることも大切ですが、
 男はパンのみに生きるにあらず。
 年金玉で晩年まで
 急所まわりを充実させることは、
 必須なことですね。
 わたくしもすぐに加入いたします!」
小林 「君が入ったところで、
 将来いい思いをするほど
 納付できないと思うが、
 気休めに入ってみるのもええやろ。
 まあ、俺は超高額納付者や。
 今日、社快感保険庁から
 年金玉見込試算が送られて来るはずや」
師は門にくくりつけられた郵便受けまで
草履を突っかけ走っていき、
中から封書を取り出し開封した。
小林 「どりゃどりゃ。むっ!」
瞬間、怒りで頭から湯気を立ちのぼらせた。

小林 「これは何かの間違いや!
 社快感保険庁のヤツ、
 記録をミスしておる!
 今から文句言ってくるわ!!」

通知書には、将来の給付がゼロと書かれていたのだ。
女性を満足させたことなど一度もない先生。
未納付とされているのは当然である。
先生はモテなかった青春のマイナスを取り戻すべく、
老後に光明を見いだそうとしたが、
無残にも夢は打ち砕かれた。
だが北小岩くんの言うように、
男はパンのみに生きるのではなく、
いくつになってもチンにも生きるのだ。
将来の股間ライフ充実ために、国民年金玉への加入を、
皆様へお薦めする次第でございます。

小林秀雄さんへの激励や感想などは、
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postman@1101.comに送ってください。

2008-01-20-SUN

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