小林 |
「山岡からか。
式の招待状を、
なぜわざわざ書留にするんか。
それにヤツはとうの昔に
結婚しとったはずやが、
どういうこっちゃ。むっ!」 |
封書の裏に、今にも泣き出しそうな文字で、
離婚式ご招待と印されていたのだ。 |
小林 |
「なるほど。
あまりうまくいっていないとは
聞いとったが、
そういうことか」 |
まったく気乗りしなかったのだが、
当日、友人のために会場である玉割会館を訪れた。
結婚式の場合、白のテーブルアレンジが多いが、
ここのテーブルは腐ったような黄土色に装飾されている。
シャンデリアの電飾は一瞬キャロルのようだが、
よく見るとイチモツの形をし、点いたり消えたりしている。
式が始まった。 |
山岡 |
「今日はお忙しい中、
私たちの離婚式にお越しいただき
ありがとうございました」 |
山岡妻 |
「18年間、何とかつくしてまいりましたが、
夫の浮気、及び私への罵詈雑言は
止むことがなく、
今日の悪しき日を
迎えることとなりました」 |
山岡 |
「僕たちはこの式を持ちまして、
二人の関係、これまでの生活、
思い出いっさいを水に流し、
それぞれの道を歩んでいこうと思います。
では早速、式にうつらせていただきます」 |
なぜか壇上には自転車が置かれている。
奥さんはゆっくりまたがると、
一心不乱にこぎだした。
自転車の発電機からは線がのび、
夫の玉金に電極が据え付けられている。
|
山岡妻 |
「よくも人のことを、
ブタだのなんだの侮辱したわね!」 |
奥さんの速度がだんだんと上がっていく。 |
山岡妻 |
「何度も何度も浮気してくれたわね。
私は痩せてキレイになって、
あんたなんかとは違う素敵な人と、
新しい恋をするのよ! くらえ!!」 |
奥さんの体のどこにそんなエネルギーがあるのだろう。
まるでスパートをかける競輪選手のようだ。 |
山岡 |
「わっ、悪かった!!」 |
山岡妻 |
「もう遅い!!」 |
ボムッ!
何かが破裂する音がした。
玉金のあたりから白い煙が出ている。
夫は失神したようだ。 |
場内
放送 |
「只今より、30分の休憩をいただきます」 |
小林 |
「離婚式は初めてやが、
鬼気せまるものがあるもんですな」 |
列席者 |
「しかし、衆目の中でここまですれば、
お互い未練もなくなるかもしれませんな」 |
再び幕が上がった。
家紋のかわりにドクロマークの入った紋付を着る夫と、
黒装束に身をかためた妻。
お尻の辺りに穴が空き、そこから太い紐が出ている。 |
場内
放送 |
「二人はお互いに浣腸を打ち合い、
穴をコルクでふさいでおります。
それではこれより、
最後の共同作業に
うつらせていただきます」 |
紐は途中で一本になっている。
目の前の滑車からのびた紐を二人でひくと、
それぞれのコルクが外れた。
二人はトイレに駆け込んだ。
|
場内
放送 |
「ご両人は、それぞれの思いと、
もよおしてきたものを水に流しております。
この後離婚届に判を押し、
離婚式を終了させていただきます」 |