北小岩 |
「はひふへほほほ」 |
町はずれの井戸端で、弟子が笑いさざめく。
小林先生の町内では、
町人がのんびり話を楽しめるように、
井戸を設置した。
井戸と言っても穴も水もなく、
枠と水汲み桶だけのフェイクなのだが。
まだまだ修行の足りない弟子であるが、
度外れて温和な性格をしているため、
近隣の人々の間でちょっとした人気者なのだ。 |
近所の
男A |
「北小岩さんの先生、
普段はどんな感じなんですか?」 |
北小岩 |
「とっても寒がりで、
まだ冬ごもり状態です。
夜は布団を7枚かけて、
お休みになります」 |
近所の
男B |
「そんなにかけて、
寝苦しくないんですかねえ」 |
北小岩 |
「重過ぎますね。
この間も布団の重みで首が絞まり、
夜中に飛び起きていたようです」 |
近所の
男A |
「それはきっと、
身体ではなく心が寒いのでしょう。
いっそのこと、
石布団でもかけたほうが
効率よいかもしれませんな。
ところでここ数日、
大便をするとお尻の穴から
まるでピッチングマシンで
繰り出される白球のように、
見事な球型の便が出て来るんですよ。
どうしたことでしょう?」 |
北小岩 |
「以前先生がおっしゃっておりました。
冬の間、虫の姿を見ることは
ほとんどございません。
それは虫たちが
人間の穴という穴にこもって、
厳しい冬を乗り切っているのだと」 |
近所の
男A |
「ということは僕の場合」 |
北小岩 |
「もうすぐ啓蟄ですから、
虫が活動を始めたのでしょう」 |
近所の
男A |
「でもなぜ大便が球のような形を?」 |
北小岩 |
「お尻の中で冬を越したフンコロガシが、
せっせとフンを
転がしたのではないでしょうか」 |
|
近所の
男A |
「ぎゃフン!」 |
近所の
男B |
「そういえば私は、
ここ数日肛門から
ちょっと不思議な匂いが
することがあります」 |
北小岩 |
「おならのように
ソフィスティケイトされた
香りではないでしょう」 |
近所の
男B |
「そうなんです。
もっと野性味があるといいますか」 |
北小岩 |
「チョウの仕業ですね。
春に向かって、
チョウチョたちが
羽ばたきの練習をしているのです」 |
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近所の
男B |
「なるほど!
だから大便になる前の物体が
扇がれて、
屁とは一味違う微香が
漂ってきたのですね」 |
北小岩 |
「先生のお話では鼻をほじっていて、
でっかい鼻くそが出てきたと思って
よく見るとダンゴ虫であったり、
停戦していたカブト虫とクワガタ虫が
お尻の中で再び激戦を繰り広げ、
肛門が傷つくこともあるそうです。
知らないうちに
陰毛がキレイに刈りそろえられていたら、
ハサミ虫やカミキリ虫が
いたのかもしれませんね」 |
近所の
男C |
「そうですか。
うちのケースは少し違って、
このところ女房のある部分の具合が
格段によくなっている気がするのですが」 |
北小岩 |
「そっ、それは!」 |
近所の
男C |
「それは?」 |
北小岩 |
「秘所にこもっていた千匹のミミズたちが、
蠢き出したのでしょう!」 |
近所の
男A
とB |
「それは果報な!!」 |