KOBAYASHI
小林秀雄、あはれといふこと。

しみじみとした趣に満ちた言葉の国日本。
そんな国のいとおもしろき言の葉を一つ一つ採取し、
深く味わい尽くしていく。
それがこの項の主な趣向である。



其の百八拾・・・輪


カーン。カーン。 斧の音がこだまする。

北小岩 「奥深い山でございましたね」

先生と弟子は登山に挑戦したのだが、
二人とも極度のへたれであるために、
山の迫力に気圧されすぐ下山してしまったのだ。

小林 「あそこを見てみい。
 村があるで。
 腹も減ったことやし、
 掛け合ってきてくれへんか」
面倒なことは
すべて弟子に押し付けてしまう先生であったが、
北小岩くんは持ち前の如才なさを発揮。
茅葺き屋根の家主と交渉し、
馳走にあずかることになった。
村の兄 「食べなはれ」
北小岩 「ありがとうございます」
村の弟 「ところで兄やん。
 裏に住んどった助の兵衛どんな、
 チン輪がそれはもう凄まじかったそうな」
北小岩 「チンリン?
 聞きなれない言葉でございますが、
 それはどういうものでございますか」
村の兄 「この村ではな、
 天に召された男は
 この世に未練を残さんように、
 チンチンを輪切りにするんじゃ」
村の弟 「そうするとな、
 チンチンの内部に
 同心円状の模様が現れる。
 それは女性といたした回数だけ
 筋を刻んどるわ。
 例えてみれば年輪に近いわな」
北小岩 「なんと!」
小林 「噂には聞いとったが、
 この村であったか!」
村の兄 「村では極端にチン輪が多い者と、
 極端に少ない者が死後崇拝されるんじゃ」
村の弟 「そこで助の兵衛どんじゃ。
 何でも凡夫が体験する四百年分ほどの
 チン輪を誇ったそうじゃ」
村の兄 「なるほどな。
 それは永久チン民に
 推薦せにゃならんどな」
北小岩 「大往生されても、
 まったくチン輪がない方も
 いらっしゃるのですか」
村の弟 「わいらが崇めている方がおってな。
 峻険な山で修行に明け暮れ、
 邪心を持たず、
 もちろん女性との交わりもない。
 そんな行者じゃ。
 先頃、洞穴で仏になっとった」
村の兄 「行者の輪切りを今おこなっとるはずじゃ。
 行ってみるじゃか」
四人は村の輪切り場に急いだが、すでに終了していた。
兄が村の衆に話しかける。
村の兄 「どうじゃった。
 やはりチン輪は一本もなかったかえ」
村の衆 「それがな、よく検分するとあったんじゃ。
 それも三本じゃ」
村の弟 「そうはいっても、
 行者は山をおりた形跡もなし、
 村の女も心当たりなしさ」
村の衆 「じゃがあった。
 そしてそのチン輪は、
 人との交わりではあり得んほど
 野性が宿っとったじゃ」
小林 「ということは」
北小岩 「ということは」
村の兄 「う〜む‥‥。山の獣と‥‥」
村の弟 「それも三回‥‥」
小林 「まったく男ってやつぁ」
北小岩 「男ってやつぁ〜」
村の衆
全員
「男ってやつぁ〜〜」

聖者といわれる男であっても、
かように己の分身の平静を保ち続けることは
困難なのである。
まったく‥‥。男ってやつぁ〜〜〜。

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2008-03-16-SUN

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