北小岩 |
「あれが忠犬ハチ公でございますね」 |
小林 |
「そうや」 |
先生があまりにも有名な銅像の急所を、こつんと叩く。 |
小林 |
「お前も知ってる事とは思うが、
ハチは一途に主人に忠義を尽くしたと
いわれとるわな。
主と従ということでは、
お前も俺に対してもっと尽くしても、
罰は当らんわな」 |
師匠として弟子に授けたものは何も無いくせに、
自分はよき何かを得ようとする。
卑しさの極みである。
だが人の好い弟子は。 |
北小岩 |
「最もでございます。
わたくしもハチを見習い、
この生ある限り誠心誠意先生に
お仕えしようと思ってまいりました」 |
その時だった。
像の裏に隠れていたおじいさんが、
びっくり箱の人形のように飛び出してきた。
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おじい
さん |
「参考にするのは
ハチだけじゃダメちゅう」 |
北小岩 |
「あなたは?」 |
おじい
さん |
「言うなれば、
忠の伝道師っちゅうところちゅう」 |
北小岩 |
「わたくしは
どのようにすればよろしいでしょうか」 |
おじい
さん |
「忠義を貫く生き物は犬だけではないがな。
犬は人間から愛されとるから
美談になっとるが、
嫌われとっても
人に尽くす生き物は多いっちゅう」 |
北小岩 |
「と申しますと」 |
おじい
さん |
「忠ヒル四郎じゃわ。
主人から避けられても、
その主人の血だけを吸っとったわ。
ある日主が行方不明になったんじゃが、
他の生き物の血を吸うことを拒否し、
息耐えたっちゅう」 |
小林 |
「なるほどな。
どんなに一途でも、
蛭では銅像は建たんやろな」 |
おじい
さん |
「他にもいますだわ。
忠精子五郎。
こいつはイチモツの先から
飛び出してしまうと、
しばらく宿主が楽しめなくなるので、
必死に泳いで中に戻る。
何度も何度も繰り返すうちに、
力尽きて絶命したっちゅうな」 |
|
北小岩 |
「忠精子‥‥。
何だか名前が爆弾のようで
恐ろしげですね」 |
おじい
さん |
「塩の在りかを主に知らせるために
自分が縮んでしまった忠なめくじ六郎。
忠インガム七郎もなかなかじゃわ。
何があっても忠誠を誓い、
一生くっついて離れないちゅう」 |
小林 |
「忠インガムなんて、
単なる駄洒落やんけ!
どうでもいいが、忠義の物語のはずが、
まったく心を動かされんな」 |
北小岩 |
「特にガムは生き物でもないし、
屁の足しにもなりません」 |
おじい
さん |
「じゃが、あんたらは聞いてしまったじゃ。
一人につき、千円で勘弁したるっちゅう」 |
小林 |
「何が勘弁や!」 |
北小岩 |
「あなたは検便でもしていなさい!!」 |