小林 |
「どうした。お前にしては珍しく、
目に清純度の高い涙を
浮かべとるようやが」 |
北小岩 |
「透明な美で
安らがせてくださった桜が、
瞬時に散りゆく姿を見ていると、
それだけでわたくしはもう」 |
小林 |
「桜のはかなさは、
また特別やからな。
しゃあない。
花びら追悼の旅に出るか」 |
二人は花が散り寂しそうに佇む桜を見つけるたび
お礼を言いながら、三日三晩歩き続けた。
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小林 |
「ふう。ここはどこの村やろか」 |
北小岩 |
「まったく想像もつきません。
村人に聞いてまいりましょう」 |
不肖の弟子は、丈の高い草むらから
顔をのぞかせている男の方に歩いていった。
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北小岩 |
「もし。
草刈りの最中とは思いますが。
はっ、申し訳ございません!!」 |
村人は草を刈っているのではなく、
野糞をしているのだった。
スポッ!
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村人 |
「うほう!」 |
北小岩 |
「うぎゃおう〜〜〜!」 |
北小岩くんは叫び声をあげた後、
驚愕のあまりアゴがはずれてしまった。
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小林 |
「どうした!鎌で襲われたんか!!」 |
弟子を心配した先生が
金剛力士像の形相で駆けつけ、
はずれたアゴをはめてあげた。
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北小岩 |
「襲われたのではございません。
そこの方は確かに大便を
し終えておりました。
しかし、突然大便が
肛門の中に戻っていったのです!」
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その時だった。
「すぽぽぽぽ〜〜〜ん!」
男の口から、ご飯、たくわん、
アジの干物などが次々飛び出してきた。
二人は腰を抜かし、その場にへたり込んだ。
「見られてしまったようじゃな」
1メートルはあろうかという白いヒゲを、
頭の上で蝶結びしている男が現れた。
おそらく村の長老であろう。
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北小岩 |
「男性のお尻に大便が吸い込まれ、
口から食べ物が出てまいりました。
どういうことでございましょうか」 |
おそらく
長老 |
「ここ数年のことなんじゃが、
村の空間が部分的に
歪んでしまったようなのじゃ。
少々の病にかかったものが、
その歪んだ空間に入り込むと、
時間が巻き戻しされてしまうんじゃ」 |
小林 |
「なるほど。
大便が過去に向かう。
つまりアスホールに入り、
体内で消化される逆の過程をたどり、
しまいに食ったもんが元の形に戻り
口から出てくるというわけやな」 |
北小岩 |
「恐ろしいことでございます」 |
おそらく
長老 |
「それほど恐ろしいというわけでも
ないんじゃ。
食べ物に戻っていく段階は、
体の中で物がつくられていく
快感があり、
口から飛び出すときにそれは
最高潮に達するらしいんじゃな」
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散りゆく桜のはかなさを胸に旅に出た二人。
時間が逆戻りし、
地面に重なった花びらが枝に帰っていくのなら
美しくもあろう。
だがこの村のケースはいかがなものであろうか。
簡潔に言えば、どうでもいいことなのであるが。
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