北小岩 |
「惜しい方を亡くされましたね」 |
小林 |
「‥‥」 |
愛弟子の問いかけに答えることもできず、
師は虚ろな目で泥人形のように固まったままだ。
小林先生には、
生涯の目標としていた男がいた。
もうすぐ90に届こうとしていたおじいさん。
歳を重ねるにつれ、
背は縮んでしまったものの、矍鑠として。
おばあさんとは幼馴染。
幼少の頃から、着物めくりをしては困らせていた。
華燭の宴を挙げてからも、
70年の月日が流れていた。
それなのに、二人で散歩している時には。
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おばあさん |
「ひゃっ!」 |
おじいさんは突然秘所を弄ったり、
胸を揉みしだいたり、指浣腸を刺したり。
それでにこにこしている
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おばあさん |
「やめてくださいよう、おじいさん」 |
その度におばあさんは10センチほど飛び上がり、
恥ずかしさで頬をぽっと赤らめる。
おじいさんは勢い余って、
手を浣腸の形にしたまま
ドブにはまってしまうこともあった。
近所の主婦たちからは、容赦のない白い目。
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蠍主婦 |
「いやらしいわね、あの狒狒爺」 |
蛇主婦 |
「おばあさんもおばあさんよ。
やられるままになっていて。
私だったら、
拳骨で鼻を砕いてるわ」 |
そんなおじいさんであったが、
群を抜いた助平力も歳には勝てず、
ついにお迎えがきてしまった。
親交が深かった先生と弟子も、
最後の時に立ち会った。
意識が朦朧としていたおじいさんが
カッと目を見開くと。
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おじいさん |
「おばあさんや、こっちへおいで」 |
おばあさん |
「何ですか。おじいさん」 |
菩薩のように静かな笑みを浮かべ、
ベッドに近づく。 |
おばあさん |
「ひゃっ!」 |
10センチ飛び上がった。
おじいさんの手が、
的確におばあさんの秘所をとらえていた。
おばあさんが宙に浮いている時も、
地上に再び降り立っても、
皺しわな手がそこから離れることはなかった。
数分後、おばあさんは
大切なものをやさしく包み込むように
その手を握り、天に召された夫に。
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おばあさん |
「おじいさん‥‥‥。
ほんとにありがとね。
85年以上も毎日構ってくれて。
こんなおばあちゃんになっても、
毎日毎日構ってくれて」
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先生と弟子の目に、
熱いものが溢れている。
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おばあさん |
「恥ずかしかったけど、
それでもうれしかったのよ」 |
いくつになっても、
エッチなちょっかいを出し続けられる仲。
それが夫婦の幸せのひとつであることは、
間違いないであろう。
仲良きことは‥‥
偉大な助平じいさんに合掌。
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