郵便屋
さん |
「電報で〜す」 |
北小岩 |
「ごくろうさまでございます。
田舎の叔父様からですね」 |
急いで文字を目で追うと。
「ヤセイニカエルスグカエル」
何のことかさっぱりわからない。
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北小岩 |
「さすがに叔父様は
村の日曜詩人。
表現が華麗すぎて、
解読不能であります。
とにかく先生にお暇をいただかねば」 |
小林先生はこの文面から異常を察したようで、
腐ったらっきょうをガブリと齧ってしまったような
苦い顔をした。
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小林 |
「あかんな。
今すぐ出立するこっちゃ。
お前に何ができるというわけでもないがな」 |
北小岩くんは早飛脚の如く、
叔父のもとに飛んでいった。
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北小岩 |
「大変ごぶさたしております。
この度はどうなされたのでしょうか」 |
叔父 |
「百聞は一見にしかずびずば〜。
いっしょに山にいこうんこ〜」 |
爪先で猛スピードで走る叔父の姿を見失わないよう、
同じように爪先走りで必死に追った。
深い山に分け入ると。
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叔父 |
「むっ、よけれ〜〜〜!」 |
北小岩 |
「うわ〜!」 |
咄嗟に屈んだ北小岩くんの頭上数センチのところを、
黄土色の物体がうなりをあげて過ぎていった。
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北小岩 |
「今のは正真正銘、
大便ではありませんか!!」 |
叔父 |
「そうじゃが。
大勢の心ない者がここで野糞をたれて、
そのまま放置して帰った。
んで、糞が野生化してしまったじゃ。
おめえが普段接しているブツは、
家畜化された、飼いならされたモノなんじゃ。
野生はほんに怖ろしい。
突然襲い掛かってくる。
匂いも通常の数倍から数十倍じゃで。
んなもんが顔にくっついたり、
目に入ったりしたら、
一巻の終わりじゃ」
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北小岩 |
「ごほっ、ごほごほごほ。
糞の残り香でこんなにむせたのは、
初めてでございます。
危ないところでございました。
わたくしびっくらこいた拍子にころんでしまい、
手が泥だらけです。
あそこに清流がありますので、
洗ってまいります」 |
シ――――――――ッ。
ジャバ―――――――ッ。
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北小岩 |
「しまったでございます。
黄色い液体のシャワーを浴びてしまいました。
地味ながらしっかりと存在感のある
沸き立つ香り。
これは小便でありましょう」 |
叔父 |
「川で垂れ流す不届き者が増えて、
野生化したじゃ」 |
北小岩 |
「あちらに血しぶきのようなものが見えますが」 |
叔父 |
「あれは切れ痔だんな」 |
北小岩 |
「痔まで・・・」 |
あまりのことに足腰がふにゃちんのようになり、
思わず切り株に尻餅をついてしまった北小岩くん。
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北小岩 |
「木に穴が空いております。
かぶと虫でも
隠れているのでございましょうか」 |
顔をゆっくり近づけると。
ぷう―――――ッ。
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北小岩 |
「くっ、くさ〜〜〜〜〜〜〜〜。
ワイルドな屁でした。
残念ながらこの山は、
わたくしの手に負えるようなレベルでは
ありません。
これ以上滞在しては危険なので
下山いたしましょう」 |
里までナンバ走りで下り、やっと一息ついた北小岩くん。
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北小岩 |
「コンクリートに割れ目ができて、
何かが顔をのぞかせております。
ははあ、
これが有名な根性大根でございますね」 |
叔父 |
「よく見てみるべえ」 |
北小岩 |
「むっ、これは大根ではなく、
ちんちんでございます!」 |
叔父 |
「去勢した人たちが、
山にちんちんを埋めてった。
それが必要以上の本能を取り戻し、
エサを求めて里におりてきただ」 |
北小岩 |
「動物のモノであろうはずのちんちんが、
なぜか植物に見えます」 |
叔父 |
「ちんちんはもともと、
植物に近いんじゃがな。
何せ下の方に球根が二個ついているがな」
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大変なことになったものである。
山に捨てられた犬や猫のように、
便も痔もおならもちんちんも、野生化するのである。
一応、気をつけといてください。 |