KOBAYASHI
小林秀雄、あはれといふこと。

しみじみとした趣に満ちた言葉の国日本。
そんな国のいとおもしろき言の葉を一つ一つ採取し、
深く味わい尽くしていく。
それがこの項の主な趣向である。



其の百八拾九・・・野生


郵便屋
さん
「電報で〜す」
北小岩

「ごくろうさまでございます。
 田舎の叔父様からですね」


急いで文字を目で追うと。

「ヤセイニカエルスグカエル」

何のことかさっぱりわからない。

北小岩 「さすがに叔父様は
 村の日曜詩人。
 表現が華麗すぎて、
 解読不能であります。
 とにかく先生にお暇をいただかねば」

小林先生はこの文面から異常を察したようで、
腐ったらっきょうをガブリと齧ってしまったような
苦い顔をした。

小林 「あかんな。
 今すぐ出立するこっちゃ。
 お前に何ができるというわけでもないがな」

北小岩くんは早飛脚の如く、
叔父のもとに飛んでいった。

北小岩 「大変ごぶさたしております。
 この度はどうなされたのでしょうか」
叔父 「百聞は一見にしかずびずば〜。
 いっしょに山にいこうんこ〜」

爪先で猛スピードで走る叔父の姿を見失わないよう、
同じように爪先走りで必死に追った。
深い山に分け入ると。

叔父 「むっ、よけれ〜〜〜!」
北小岩 「うわ〜!」

咄嗟に屈んだ北小岩くんの頭上数センチのところを、
黄土色の物体がうなりをあげて過ぎていった。

北小岩

「今のは正真正銘、
 大便ではありませんか!!」

叔父

「そうじゃが。
 大勢の心ない者がここで野糞をたれて、
 そのまま放置して帰った。
 んで、糞が野生化してしまったじゃ。
 おめえが普段接しているブツは、
 家畜化された、飼いならされたモノなんじゃ。
 野生はほんに怖ろしい。
 突然襲い掛かってくる。
 匂いも通常の数倍から数十倍じゃで。
 んなもんが顔にくっついたり、
 目に入ったりしたら、
 一巻の終わりじゃ」

北小岩 「ごほっ、ごほごほごほ。
 糞の残り香でこんなにむせたのは、
 初めてでございます。
 危ないところでございました。
 わたくしびっくらこいた拍子にころんでしまい、
 手が泥だらけです。
 あそこに清流がありますので、
 洗ってまいります」

シ――――――――ッ。
ジャバ―――――――ッ。

北小岩

「しまったでございます。
 黄色い液体のシャワーを浴びてしまいました。
 地味ながらしっかりと存在感のある
 沸き立つ香り。
 これは小便でありましょう」

叔父

「川で垂れ流す不届き者が増えて、
 野生化したじゃ」

北小岩

「あちらに血しぶきのようなものが見えますが」

叔父 「あれは切れ痔だんな」
北小岩

「痔まで・・・」


あまりのことに足腰がふにゃちんのようになり、
思わず切り株に尻餅をついてしまった北小岩くん。

北小岩 「木に穴が空いております。
 かぶと虫でも
 隠れているのでございましょうか」


顔をゆっくり近づけると。

ぷう―――――ッ。

北小岩 「くっ、くさ〜〜〜〜〜〜〜〜。
 ワイルドな屁でした。
 残念ながらこの山は、
 わたくしの手に負えるようなレベルでは
 ありません。
 これ以上滞在しては危険なので
 下山いたしましょう」

里までナンバ走りで下り、やっと一息ついた北小岩くん。

北小岩 「コンクリートに割れ目ができて、
 何かが顔をのぞかせております。
 ははあ、
 これが有名な根性大根でございますね」
叔父 「よく見てみるべえ」
北小岩 「むっ、これは大根ではなく、
 ちんちんでございます!」
叔父 「去勢した人たちが、
 山にちんちんを埋めてった。
 それが必要以上の本能を取り戻し、
 エサを求めて里におりてきただ」
北小岩 「動物のモノであろうはずのちんちんが、
 なぜか植物に見えます」
叔父 「ちんちんはもともと、
 植物に近いんじゃがな。
 何せ下の方に球根が二個ついているがな」


大変なことになったものである。
山に捨てられた犬や猫のように、
便も痔もおならもちんちんも、野生化するのである。
一応、気をつけといてください。

小林秀雄さんへの激励や感想などは、
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2008-05-18-SUN

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