小林 |
「その紙切れはなんや?
やけに大事そうやないかい」 |
北小岩 |
「明日、中学時代の友人が、
クラシックコンサートに出演するのです」 |
小林 |
「お前の友だちにも、
随分ハイカラな男がおるんやな」 |
北小岩 |
「わたくしなどは中学生の時、
自分が将来何をしたいかわからず、
エロ本をただまわし読みしているだけでした。
しかし彼は、その頃から将来に向かって
一歩ずつ歩んでいたのです。
苦学して音楽の学校を卒業いたしました。
専門は打楽器です。
彼の夢はオーケストラに入ることだったのですが、
オーディションにはなかなか受かりませんでした。
その夢がついにかなったのです。
シンバル奏者として、明日デビューいたします」 |
コンサート当日。
弟子と馬鹿先生は一張羅の服を着込み、
会場であるドバット公会堂の前列で開演を待っていた。
|
小林 |
「クラシカルミュージックは、
若い頃俺も少々齧ったからな。
お前よりかなり詳しいで」 |
壇上横の扉が開き、団員たちが姿を現した。
|
小林 |
「指揮者が登場する前に、
ひときわ大きな拍手で迎えられるのは、
コンサートマスターや」 |
観衆の拍手がボリュームを上げる。
だが、様子がおかしい。
|
北小岩 |
「他の方は黒いタキシードでキメているのに、
コンサートマスターは、
黒は黒でも肌が黒く、
ブリーフしかはいておりません。
それに腰をカクカク動かしているようです」 |
小林 |
「むっ!
あいつはコンサートマスターやない。
『インサートマスター』や!」
|
隣でAVフェスティバルがあり、
男優が会場を間違えて混ざってしまったらしい。
主催者が不手際をわび、
まずは本物のコンサートマスターが、
続いて指揮者がなぜか二人登場した。
|
北小岩 |
「友だちの話では、
このオーケストラは
ダイナミックな表現を追及しているために、
男と女のダブルコンダクター制を
とっているらしいのです」 |
マンを持して、演奏が始まる。
|
小林 |
「聴いたことのない曲やな」 |
北小岩 |
「それにあの指揮者たち、動きが妙です。
女性はフォルティッシモになると
股間をまさぐったり、
ノーブラのお乳を上下動させたりしております。
男性のタクトは伸びたり縮んだりしているし」 |
小林 |
「指揮棒ではなく、如意棒を使っとるな」 |
だが、股間まさぐり指揮は
男性奏者のボルテージをあげ、
伸びたり縮んだりは女性奏者を恍惚とさせ、
演奏に艶っぽさをあたえた。
|
北小岩 |
「友の出番は一ヶ所しかございません。
しかし、その一ヶ所のために、
彼は来る日も来る日も
シンバルを鳴らし続けてまいりました。
もうすぐ彼の夢の瞬間が訪れます」 |
待機していた友が立ち上がった。
緊張で手足が震えている。
何とか呼吸を整え、魂の一鳴りのために両手を広げた。
渾身の力を込めて、栄光のシンバルが鳴った!!
・・・はずだったのだが。
何かがつぶれるにぶい音がし、
友が床に倒れてのたうちまわっている。
巨大なシンバルで、
力いっぱいちんちんを挟んでしまったのだ。
|
|
|
北小岩 |
「この日のために
命懸けで練習してきたのに・・・。
うっうっうっ」 |
息をつまらせる弟子。
|
北小岩 |
「うっうっ・・・うわはははははは」 |
どんなに苦しい練習を積んでこようが、
やはり笑えるものは笑えるのだ。
クラッシックコンサートでは珍しく、
会場に大爆笑が巻き起こった。
こうして友は、どんな名手よりも印象深く、
クラシック界へのデビューを果たしたのだった。 |