北小岩 |
「ふう〜〜〜。
プウ〜〜〜ッ」 |
小林 |
「どないした。
ため息まではよしとしよう。
だが、最後のプウ〜〜〜ッはなんや」 |
北小岩 |
「失礼いたしました。
わたくし、実は梅雨が
大の苦手でございまして。
あのじめじめな感じを思い、
ため息をつきましたところ、
勢い余って口からおならが
出てしまった次第でございます」 |
小林 |
「口から屁を出せるようになれば、
それはそれでたいしたもんや。
とはいえそのように梅雨を
気嫌いしておったら、
風流な男にはなれんな。
向こう正面の町に住んどる風流さんから、
梅雨の楽しみを学んできなさい」 |
不肖の弟子は、
中古の一輪車に乗り向こう正面の町へ向かった。
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北小岩 |
「桁外れな風流人とは、
どのような方でございましょうか。
むっ、この家ですね。
ごめんくださいませ」 |
朽ち果てる寸前の戸を開け、呼びかけてみる。
中からにこやかな老人が顔を出し、手を振った。
中指と人差し指の間から親指を出している。
強い力で指を締め付けているため、
親指が赤黒く変色している。
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北小岩 |
「うちの先生からこちらに梅雨を」 |
風流さん |
「プウ〜〜〜ッ。
失敬失敬。
近頃口からしきりに屁が出てな。
まずはこれじゃ」 |
老人はいきなり着物の裾をたくしあげた。
下帯はつけていない。
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北小岩 |
「たっ、確かに風流な!」 |
じいさんの陰毛があるべき部分には、
一面苔が敷きつめられている。
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風流さん |
「これからの季節、
雨に濡れると苔の緑が
一段と映えるんじゃな。
わしはこの部分をお寺だと思うとる。
ほら、チーンという音が
聞こえてきそうじゃろ」 |
北小岩 |
「やや萎れ気味とはいえ、
チンがございますからね。
小さな苔寺と
言えなくもないかもしれません」
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風流さん |
「チンつながりと言うことでいえば、
梅雨ならではの戦いというものが
あるんじゃ」 |
北小岩 |
「梅雨と戦い?
わたくしの中でまったく結びつきませんが」 |
風流さん |
「そろそろ姿を見せる頃じゃろ」 |
裾をまくったまま縁台から飛び降りると、
あじさいに突進。
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風流さん |
「おったな。
よく見ておくんじゃ。
チンチェスト!!」 |
大声を上げると、
あじさいの葉の裏にいたカタツムリに、
珍棒をたたきつけた。
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風流さん |
「勝った!」
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棒にたいした硬度はなかったが、
カタツムリは思わず角をひっこませた。
(※カタツムリには寄生虫がついている場合が
ありますので、よい子のみなさんは
決して真似をしないでください)
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風流さん |
「夏に向けて、
カタツムリと戦い勝利をおさめることで、
自信をつけとくんじゃ。
おっと、降ってきよった。
そこまで出かけようか」 |
奇妙な傘を開く。
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北小岩 |
「随分派手ですね。
なぜか人を興奮させるものがございます」 |
風流さん |
「これはな、パンティで作った傘なんじゃ。
濡れると透けてくる。
しばらく雨に撫でられていると、
液体が滴り落ちてきてな。
つゆだくじゃな」 |
この老人、果たして本当に風流人なのだろうか。
ただ助平なだけのまがい者である気がしないでもない。
梅雨を楽しもうという気概だけは、
何となく伝わってくるのだが。 |