KOBAYASHI
小林秀雄、あはれといふこと。

しみじみとした趣に満ちた言葉の国日本。
そんな国のいとおもしろき言の葉を一つ一つ採取し、
深く味わい尽くしていく。
それがこの項の主な趣向である。



其の百九拾参・・・まん


外は悲しげな雨が降り続いている。
しかし、
廊下で女性用マガジンのページを繰る弟子の顔は、
どこか晴れやかである.

小林 「空が泣いとるのに、
 お前だけがご機嫌のようやな」
北小岩 「先ほど古本屋さんで、
 年代物のエロ本を
 チェックしておりましたところ、
 店のご主人からファッション誌を
 いただいたのです。
 その中に街を歩くセンスのよい女性たちを
 ピックアップした写真がございまして、
 わたくしが学生の頃に比べまして、
 格段におしゃれで
 可愛らしくなっていたのです。
 それを拝見しておりましたら、
 何だかうれしくなってしまいまして」
小林 「そこに出ている女とは、
 接点は皆無やろ。
 喜ぶだけ無駄っちゅうもんや。
 お前は将来結婚するつもりがあるんか?」
北小岩 「もちろんでございます」
小林 「屁の足しにもならんが、
 どんな女が好みなんや」
北小岩 「そうでございますね。
 わたくしをしっかり
 支えてくださいまして・・・。
 むっ、そうです!
 これからの運気を急上昇させてくれるような、
 あげまん女性が希望でございます」
小林 「他力本願な男やな。
 世の中では、あげまん・さげまん等と、
 二律背反的に物事を決着させようとしとるが、
 まんの世界はそんなに甘いもんやないで」
北小岩 「と申しますと?」
小林 「俺よりもグンバツに詳しい方がおる。
 万の道はまん。蛇の道は蛇や」

先生と弟子の大馬鹿コンビは、
この問題の専門家・万蛇(まんじゃ)氏を訪ねた。

北小岩 「お忙しいところ、大変申し訳ございません。
 わたくし、結婚できるなら
 ぜひあげまんの方と添いたいと
 思っておりますが、
 先生によりますと、
 まんの世界はそのように浅いものではないと」
万蛇 「まんりき――――――――――――――
 ――――――――――――――――っ!!」
北小岩 「うお〜〜〜〜〜〜!」

氏の一喝で弟子は吹っ飛び、
立っていたポールに、
己のポールをしたたか打ちつけうずくまった。

万蛇 「まだまだゆるいじゃ!
 あのように複雑な形状をしたものが、
 あげさげだけで語れるわけなかろが」
北小岩 「それでは他にも」
万蛇 「もちろんじゃ。
 例えば『回転まん』。
 このおなごと交わった男のその後は、
 あがったんだかさがったんだか
 判断できぬほど、
 ぐるぐるした状況に誘われるじゃ」
北小岩 「回転まん・・・。
 底知れぬエネルギーを感じます」

万蛇 「まんは、百まん百色。
 いや、万まん万色じゃ。
 おっと、自分でも何言っているのか
 わからなくなった。
 他にもな、
 『ピザまん』と呼ばれるおなごもおる」
北小岩 「ピザまんでございますか。
 それはわたくしの大好物でございます。
 して殿方はどのように」
万蛇 「ピサの斜塔のように常に傾きながらも、
 決して倒れんのじゃ。
 だが、傾き続ける人生はつらいもんじゃろ」
北小岩 「確かに。
 しかし、それはピザまんではなく、
 ピサまんではございませんか」

万蛇 「一字ぐらいまけとけや。
 他にも喧嘩がめちゃめちゃ強くなる
 『たいまん』、
 一生離れられなくなる『マンツーまん』。
 俺の友人などおなごのまんに、
 生業まで決められてしまったじゃ」
北小岩 「どのようなまんで」
万蛇 「『証券まん』じゃ」
北小岩 「ぎゃふん」

喝を入れたところまでは、
何かを持っていると感じさせた万蛇氏だったが、
話を聞くうちに簡単に底が割れてきた。
だが、男なら身にしみて分かるように、
まんは一筋縄では行かないものなのだ。
あげまん、さげまんだけで評価を固定してしまうのは、
突っ込みが足りないと言われても仕方ないであろう。

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2008-06-15-FRI

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