外は悲しげな雨が降り続いている。
しかし、
廊下で女性用マガジンのページを繰る弟子の顔は、
どこか晴れやかである.
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小林 |
「空が泣いとるのに、
お前だけがご機嫌のようやな」 |
北小岩 |
「先ほど古本屋さんで、
年代物のエロ本を
チェックしておりましたところ、
店のご主人からファッション誌を
いただいたのです。
その中に街を歩くセンスのよい女性たちを
ピックアップした写真がございまして、
わたくしが学生の頃に比べまして、
格段におしゃれで
可愛らしくなっていたのです。
それを拝見しておりましたら、
何だかうれしくなってしまいまして」 |
小林 |
「そこに出ている女とは、
接点は皆無やろ。
喜ぶだけ無駄っちゅうもんや。
お前は将来結婚するつもりがあるんか?」 |
北小岩 |
「もちろんでございます」 |
小林 |
「屁の足しにもならんが、
どんな女が好みなんや」 |
北小岩 |
「そうでございますね。
わたくしをしっかり
支えてくださいまして・・・。
むっ、そうです!
これからの運気を急上昇させてくれるような、
あげまん女性が希望でございます」 |
小林 |
「他力本願な男やな。
世の中では、あげまん・さげまん等と、
二律背反的に物事を決着させようとしとるが、
まんの世界はそんなに甘いもんやないで」 |
北小岩 |
「と申しますと?」 |
小林 |
「俺よりもグンバツに詳しい方がおる。
万の道はまん。蛇の道は蛇や」 |
先生と弟子の大馬鹿コンビは、
この問題の専門家・万蛇(まんじゃ)氏を訪ねた。
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北小岩 |
「お忙しいところ、大変申し訳ございません。
わたくし、結婚できるなら
ぜひあげまんの方と添いたいと
思っておりますが、
先生によりますと、
まんの世界はそのように浅いものではないと」 |
万蛇 |
「まんりき――――――――――――――
――――――――――――――――っ!!」 |
北小岩 |
「うお〜〜〜〜〜〜!」 |
氏の一喝で弟子は吹っ飛び、
立っていたポールに、
己のポールをしたたか打ちつけうずくまった。
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万蛇 |
「まだまだゆるいじゃ!
あのように複雑な形状をしたものが、
あげさげだけで語れるわけなかろが」 |
北小岩 |
「それでは他にも」 |
万蛇 |
「もちろんじゃ。
例えば『回転まん』。
このおなごと交わった男のその後は、
あがったんだかさがったんだか
判断できぬほど、
ぐるぐるした状況に誘われるじゃ」 |
北小岩 |
「回転まん・・・。
底知れぬエネルギーを感じます」
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万蛇 |
「まんは、百まん百色。
いや、万まん万色じゃ。
おっと、自分でも何言っているのか
わからなくなった。
他にもな、
『ピザまん』と呼ばれるおなごもおる」 |
北小岩 |
「ピザまんでございますか。
それはわたくしの大好物でございます。
して殿方はどのように」 |
万蛇 |
「ピサの斜塔のように常に傾きながらも、
決して倒れんのじゃ。
だが、傾き続ける人生はつらいもんじゃろ」 |
北小岩 |
「確かに。
しかし、それはピザまんではなく、
ピサまんではございませんか」
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万蛇 |
「一字ぐらいまけとけや。
他にも喧嘩がめちゃめちゃ強くなる
『たいまん』、
一生離れられなくなる『マンツーまん』。
俺の友人などおなごのまんに、
生業まで決められてしまったじゃ」 |
北小岩 |
「どのようなまんで」 |
万蛇 |
「『証券まん』じゃ」 |
北小岩 |
「ぎゃふん」 |
喝を入れたところまでは、
何かを持っていると感じさせた万蛇氏だったが、
話を聞くうちに簡単に底が割れてきた。
だが、男なら身にしみて分かるように、
まんは一筋縄では行かないものなのだ。
あげまん、さげまんだけで評価を固定してしまうのは、
突っ込みが足りないと言われても仕方ないであろう。
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