小林 |
「なかなか着かんな」 |
北小岩 |
「そうでございますね」 |
体力が人より格段に劣る先生と弟子は、
当然の如く、重度の夏バテになってしまった。
近所のかき氷屋さんで涼をとろうと家を出たものの、
途中から歩くこともままならず、
焼けた地べたをなめくじのように這っている。
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小林 |
「黒雲が顔を出しよった。
急がんとグショ濡れになるで」 |
北小岩 |
「それにしても、
今まで見たことないほどの
黒さでございますね」 |
小林 |
「そうやな。
むっ、むむむむむ」 |
北小岩 |
「うわあっ! 雲が!!」 |
びゅううううううう
信じられないことに突然雲が千切れ、
凄まじい勢いで襲撃してきたのだ。
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北小岩 |
「すみません!」 |
気弱な弟子は、
眼前に迫った黒い物体に思わずあやまってしまった。
だが、それは北小岩くんを無視し、
15メートルほど先の女性の下腹部付近で止まった。
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北小岩 |
「あんなところで雨が降り出しました。
それも豪雨です」 |
しかし、女性は手馴れた様子で
小型の傘を取り出す&すばやく差したので、
秘所は濡れずにすんだ。
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小林 |
「どういうこっちゃ。
この怪奇現象は。
誰か説明できるヤツはおらんか」 |
「ここにおります」
下半身にワイパーをつけた怪しげな男が、
すかさずこたえた。
「私は下半身気象予報士の
『賃満晴留(ちんまんはれる)』と申します。
実は温暖化で、局地的な豪雨だったものが、
さらに局部的なものになっているのですな」
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小林 |
「なるほどな。
今まではその地域に
大雨を降らせていたが、
範囲が極端に狭まり、
局部を狙って
どしゃぶりになるというわけやな」
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賃満晴留 |
「そうなんですよ。
局部が集中豪雨に見舞われると、
甚大な被害を被ります。
特に女性の場合は、お小水を漏らしたと
間違われたらことですからね」 |
小林 |
「それはかなりの屈辱やな」 |
賃満晴留 |
「ですから、
私が有料で予報サービスしておるのです。
契約した人たちには、
局部大雨情報が配信されます」 |
北小岩 |
「個人の急所をターゲットにした
よりパーソナルな豪雨・・・。
侮れませんね」 |
賃満晴留 |
「ええ。
ですから、男も契約していないと、
かなり危険ですよ。
何せその部分は、草むらに大木が
一本立っているようなものでしょ。
事と次第によっては、
イチモツが流されてしまう事だって
あり得ますからな。
いかがです?
あなたがたも契約しませんか」 |
小林 |
「確かに俺のような巨木の持ち主は、
常にリスクと隣り合わせや。
詳しく聞かせてもらおうやないか」
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局地的な豪雨は深刻な被害をもたらし、
時にかけがえのないものまで奪ってしまう。
さらに恐るべきことに、豪雨は次のフェーズ、
つまり『局部的豪雨』段階に移行している。
各自、イチモツなどを失うことだけは、
何としても避けねばならないだろう。
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