北小岩 |
「そうなのでございますか」 |
電気屋さんでテレビのディスプレイを見学していた
弟子の北小岩くんが、店員さんと話しこんでいる。
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店員 |
「2011年から地デジになりますので、
あなたのテレビなら、
買い替えが賢明でしょうね。
時代はひとつ先へ進んでいるのですよ」 |
北小岩くん愛用のテレビジョンは、
ガチャガチャと手で回して
チャンネルをかえるタイプのものである。
時代がひとつというよりも、
三つも四つも遅れているだろう。
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北小岩 |
「一生使い続けようと
思っておりましたが、
油断していたようでございますね」 |
小林 |
「ひとつ進んだのはそれだけやないで」 |
北小岩 |
「あっ、先生!」 |
いつの間にか小林先生と謎の男が
弟子の後ろに立っていた。
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北小岩 |
「僭越ながら、
おっしゃられている意味が
よくわかりません」 |
小林 |
「こちらにおられるのは、
ひとつ進んだことに詳しい御方や。
よ〜く伺っとけ」 |
ひとつ
進んだことに
詳しい人 |
「例えばあそこ。
入口の外にいる女性の
下半身のあたりをご覧ください」 |
北小岩 |
「え〜と、
ハチが飛んでおります。
あっ、スカートの中に入っていく!」 |
ひとつ
進んだことに
詳しい人 |
「あれはハチがひとつ進み、
キュウになったものです。
ハチにくらべると
考えられないほどスケベで、
常に女性の蜜を狙っています」
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小林 |
「そうなんや。
今世の中では、
科学や技術だけではなく、
様々なものがひとつ進んでおるんや」 |
先生が言い終えるかいなかのタイミングで、
路地から虚無僧が尺八を吹きながら登場した。
フ―フゥフゥ―
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虚無僧 |
「ゴッ、ゴホゴホ」 |
北小岩 |
「どうしたのでございましょうか」 |
ひとつ
進んだことに
詳しい人 |
「尺八が、尺九になったのですね。
尺八の時は気持ちのよいものでしたが、
尺九は吹こうとすると、
ノドの奥に入り込んで
突いてしまうのですね。
ディープ尺八といったところでしょうか」 |
通りの向こうのサンパツ屋では、
散髪されている中年男が放心状態になっているようだ。
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ひとつ
進んだことに
詳しい人 |
「サンパツまでは
決死の覚悟でこなせても、
ヨンハツは無理だったのでしょう」 |
北小岩 |
「話が大幅に
それているような・・・」
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小林 |
「あの家から飛び出してきて
倒れたヤツを見てみい。
フンと尿を同時に漏らしとるやろ。
きっとイチジク浣腸がニジク浣腸となり、
効能が二倍になってしまったんやな。
俺が注目しとるのは、
オナゴや。
ひとつ進めばオナロク。
なっ、いやらしい響きがするやろ。
今まで体験したことのないほど
ええ事が起こりそうな予感や」 |
北小岩 |
「ひとつ進むということが、
いいことなのか忌むべきことなのか、
よくわからなくなってまいりました」 |
技術や物事が進んでいくこと。
人はそれを進歩と呼ぶ。
冷静に目を凝らしてみれば、森羅万象が
すでにひとつ先へと進んでいるのだ。
上記には登場していないが、
ご苦労さん(5・9・6・3)という言葉なども、
6・10・7・4になっている可能性は高い。
いったいどのようなものになったのか、想像もつかない。
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