「ムッ、この『止まれ』という文字は、
0.2ミリ曲がっている!」
黒いブランド物に身を包んだ男が、
道に頬をつけて、
懐から0.1ミリ単位で計測できる定規を出した。
「やはり思った通りだったか」
プップー!
交通の要所での計測であったため、
すぐに十台ほどの車が連なってしまった。
「なんや、この渋滞は!
アクシデントの匂いがするな。
もしかしたら、ぱっつんぱっつんのいい女が、
誤って股から薄いパンティを
ずり落としとるのかもしれん」
しょ〜もない妄想しかできない低脳男児、
小林先生がダッシュをかけた。
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小林 |
「なんや。野郎やないか。
ここまで走った分だけ、
エネルギー損したわ。
でも、この男どこかで見たことあるな。
そうや!」 |
二ヶ月ほど前、
先生は道端で上物のエロ本を拾ったのだが、
雨に濡れていたせいで
下にあったデザイン系の雑誌とくっついてしまっていた。
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小林 |
「あのマガジンに載っていた男やな。
何でも日本の
トップデザイナーという話や」 |
馬鹿先生はおもむろに近づくと相好を崩し。
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小林 |
「いや、どうも。
何かお困りですか」 |
なれなれしく話しかける。
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トップ
デザイナー |
「実はですね、
道路に描かれた文字が
ほんのわずかですが、
曲がっていたのですよ」 |
小林 |
「ほほう、さすがですな。
私には超真っ直ぐにしか
見えませんでした」
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いつもはぶっきらぼうな先生であるが、
丁寧な口調になっているのは、
有名人や実績のある人にからきし弱いからであろう。
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デザイナー |
「職業病ですかね。
いろいろなものに
神経質になってしまって、
困っているのですよ。
意図からずれて
曲がっているものはもちろん、
僕の趣味に合わないデザインなんかも
まったく受け付けなくて」 |
小林 |
「ほほう、それは大変ですな」 |
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デザイナー |
「最初は服や車、
家具や文房具といった
モノだったのですが、
近頃は自分の体の部位のデザインも
気になって」 |
小林 |
「なるほど。
では、女性のおっぱいの形なんていうのは
どうですか」 |
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デザイナー |
「あれは神による最高の芸術です。
思わず頬ずりしたくなる曲線と丸み、
そしてかわいらしい突起。
いくら私でも、
あれほど美しいフォルムを
デザインできたかどうか。
それはそれとして・・・」 |
小林 |
「ははあ。わかりました。
あなたは、自分のちんちんや
ケツの穴の形が気に入らないのでしょう」 |
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デザイナー |
「よくぞおわかりに!
実はそうなのですよ。
モノでしたら私がデザインすれば
すむのですが、
体に備わったものですと
そうもいきません。
私の美意識からすれば、
身につけることはありえない
悪趣味なブツなのですが、
現にくっついてしまっている。
夜中にうなされて起きることがあります。
そんな時にはもう眠れませんから、
机に向かってデザインしてみるのです」 |
小林 |
「ちんちんやケツの穴をですか」 |
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デザイナー |
「そうです。
ああ、神は人体を作るときに、
なぜ私に相談して
くれなかったのでしょうか・・・」 |
氏は深海のような暗い目をし、
ちんちんとケツの穴のデザインが描かれた紙を
先生に渡した。
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美意識がずば抜け、我が国トップクラスの
デザイン能力を持った男。
しかし、その完全主義は、時に現実と相容れず、
絶望へと突き落とされてしまうことがあるのだ。
そう考えると、小林先生のように
美意識がマイナスの男の方が、
生きやすいともいえるんですね。
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