KOBAYASHI
小林秀雄、あはれといふこと。

しみじみとした趣に満ちた言葉の国日本。
そんな国のいとおもしろき言の葉を一つ一つ採取し、
深く味わい尽くしていく。
それがこの項の主な趣向である。



其の弐百拾弐・・・デザイン

「ムッ、この『止まれ』という文字は、
 0.2ミリ曲がっている!」

黒いブランド物に身を包んだ男が、
道に頬をつけて、
懐から0.1ミリ単位で計測できる定規を出した。

「やはり思った通りだったか」

プップー!

交通の要所での計測であったため、
すぐに十台ほどの車が連なってしまった。

「なんや、この渋滞は!
 アクシデントの匂いがするな。
 もしかしたら、ぱっつんぱっつんのいい女が、
 誤って股から薄いパンティを
 ずり落としとるのかもしれん」

しょ〜もない妄想しかできない低脳男児、
小林先生がダッシュをかけた。

小林 「なんや。野郎やないか。
 ここまで走った分だけ、
 エネルギー損したわ。
 でも、この男どこかで見たことあるな。
 そうや!」

二ヶ月ほど前、
先生は道端で上物のエロ本を拾ったのだが、
雨に濡れていたせいで
下にあったデザイン系の雑誌とくっついてしまっていた。

小林 「あのマガジンに載っていた男やな。
 何でも日本の
 トップデザイナーという話や」

馬鹿先生はおもむろに近づくと相好を崩し。

小林 「いや、どうも。
 何かお困りですか」

なれなれしく話しかける。

トップ
デザイナー
「実はですね、
 道路に描かれた文字が
 ほんのわずかですが、
 曲がっていたのですよ」
小林 「ほほう、さすがですな。
 私には超真っ直ぐにしか
 見えませんでした」


いつもはぶっきらぼうな先生であるが、
丁寧な口調になっているのは、
有名人や実績のある人にからきし弱いからであろう。

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デザイナー
「職業病ですかね。
 いろいろなものに
 神経質になってしまって、
 困っているのですよ。
 意図からずれて
 曲がっているものはもちろん、
 僕の趣味に合わないデザインなんかも
 まったく受け付けなくて」
小林 「ほほう、それは大変ですな」
トップ
デザイナー
「最初は服や車、
 家具や文房具といった
 モノだったのですが、
 近頃は自分の体の部位のデザインも
 気になって」
小林 「なるほど。
 では、女性のおっぱいの形なんていうのは
 どうですか」
トップ
デザイナー
「あれは神による最高の芸術です。
 思わず頬ずりしたくなる曲線と丸み、
 そしてかわいらしい突起。
 いくら私でも、
 あれほど美しいフォルムを
 デザインできたかどうか。
 それはそれとして・・・」
小林 「ははあ。わかりました。
 あなたは、自分のちんちんや
 ケツの穴の形が気に入らないのでしょう」
トップ
デザイナー
「よくぞおわかりに!
 実はそうなのですよ。
 モノでしたら私がデザインすれば
 すむのですが、
 体に備わったものですと
 そうもいきません。
 私の美意識からすれば、
 身につけることはありえない
 悪趣味なブツなのですが、
 現にくっついてしまっている。
 夜中にうなされて起きることがあります。
 そんな時にはもう眠れませんから、
 机に向かってデザインしてみるのです」
小林 「ちんちんやケツの穴をですか」
トップ
デザイナー
「そうです。
 ああ、神は人体を作るときに、
 なぜ私に相談して
 くれなかったのでしょうか・・・」

氏は深海のような暗い目をし、
ちんちんとケツの穴のデザインが描かれた紙を
先生に渡した。


美意識がずば抜け、我が国トップクラスの
デザイン能力を持った男。
しかし、その完全主義は、時に現実と相容れず、
絶望へと突き落とされてしまうことがあるのだ。
そう考えると、小林先生のように
美意識がマイナスの男の方が、
生きやすいともいえるんですね。

小林秀雄さんへの激励や感想などは、
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2008-10-26-SUN

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