小林 |
「♪ゆ〜焼けこ〜焼けで」 |
北小岩 |
「♪途方に暮れて〜」 |
先生と弟子のなさけない歌声が響く。
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小林 |
「夕暮れというのは、
どこか切ないものやな」 |
北小岩 |
「ポツンと灯りのともった家庭から、
夕餉の香りがしてまいります。
あそこのお家では、
煮干を3匹焼いているようでございます」 |
小林 |
「むっ、あれはなんや!」 |
北小岩 |
「ナウシカに出てくる
オームの赤い目でございましょうか!」 |
小林 |
「まったく違うな。
どうやらケツの穴のあたりが
光っているようや」 |
道行く人々の臀部が、時たま赤色の光を発するのだ。
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ある男 |
「あれこそは、
お尻のテールランプですな」
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己のケツをこちらにむけ、
ランプを点けたり消したりしながら、
ある男が話しに割って入った。
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小林 |
「なんや、お前は!」 |
ある男 |
「私は車のランプをつくっている、
零細企業の社長さんです」 |
北小岩 |
「どうも胡散臭いでございますね。
車のランプとお尻のランプが
どう関係するのでしょうか」 |
ある男 |
「まず、
自動車界の現状からお話しますと、
若者の車離れが進んでいると同時に、
都市部では自家用車不要論まで
出てきています。
これから自動車産業は、
ますます厳しくなることが
予想されるでしょう。
となると、私たちのような小さな会社は、
サバイバルしていくのが
非常に困難になる。
ですので、自動車用のランプを
人用に転換していかなければ、
にっちもさっちも
いかなくなる恐れがあります。
それで、まずはこの町から
実験を開始したのです」 |
北小岩 |
「あのランプは、
歩いている人が止まると
点灯するのですか」 |
ある男 |
「そうではありません。
お尻の穴を締めると点いて、
ゆるめると消えます」 |
北小岩 |
「そんなものが必要なのですか」 |
小林 |
「必要と言うより重要やな。
階段を上っている時や
信号待ちをしている時、
前にいるヤツが強くケツの穴を締めすぎ、
峡谷のようにズボンに割れ目が
ついてしまっていることがある。
それを見てしまうと、
他の人もケツの穴を
締めているのかどうか、とても気になる。
だから今、
人のケツがどのような状態にあるのか
手に取るようにわかることは、
かなり大切なことや」 |
ある男 |
「そうですね。
それにお尻の穴を締めることは、
ケツ筋の運動にもなり、
ヒップの形もよくなります。
体がピンとして姿勢にも好影響を与える。
いいことずくめです。
人から見られることで、
締めがいもあるというものです」 |
小林 |
「なるほどな。
ところで、他にはどんなものがあるんや」 |
ある男 |
「方向指示器用のものを応用し、
右脳を使っている時には右のウィンカー、
左脳を使っている時には左のウィンカーが
作動する装置もあります」 |
小林 |
「知的やな。
俺にぴったりや。
ちょっと貸してみい」 |
先生が装着すると、左右のランプが同時に点滅した。
そして、点滅速度が急激に上がっていった。
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小林 |
「?
こりゃ、壊れとるで」 |
ある男 |
「スケベなことを考えると、
ハザードランプに切り替わるのです。
チカチカが激しいのは、
とんでもなくスケベな邪念が
渦巻いている証拠ですね」 |
小林 |
「・・・」
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時代の急激なる変化。
その波に乗り遅れた企業は、
巨大な渦に巻き込まれてしまうかもしれない。
零細企業社長の先見は、
果たしていかがなものでしょうか。
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