ズザザザザー。
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北小岩 |
「凄まじい豪雨でございますね」 |
小林 |
「地球温暖化のせいなのか、
ようわからんが、
この季節に不似合いな降りやな」 |
ボロ市に出かけた先生と弟子であったが、
帰宅途中どしゃぶりにあい、駅で足止めをくらった。
構内は傘を持たない人でごった返している。
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男A |
「夏でもないのに、まるで夕立ですね」 |
見知らぬ男が話しかけてくる。
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小林 |
「朝だちはしょっちゅうなんやが、
夕立は珍しいですな」 |
先生の品のない冗談に、思わず苦笑する男。
その時だった。
「冷えますねえ。いかがですか。
石焼き芋おいしいですよ」
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男A |
「ほほう。おいくらですか」 |
「いえいえ、お金などいりません。はい、どうぞ!」
男はほくほくの焼き芋を配りだした。
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小林 |
「噂には聞いとったが、初めて会ったな」 |
北小岩 |
「どなたでございますか」 |
小林 |
「彼は通称『雨宿りさん』。
なかなかの男らしいで」 |
数十人の体が、お芋であたたまった頃、
雨宿りさんが声をあげた。
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雨宿り
さん |
「お急ぎの方もいらっしゃることでしょう。
私ができる限り多くの人を
家までお送りいたします」 |
言うやいなや、直径10メートルもある傘を広げた。
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雨宿り
さん |
「むうううううううッ」 |
風に煽られながらも、応援団の旗手のように、
傘を支える。
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雨宿り
さん |
「さあ、どうぞ」
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小林 |
「せっかくだから、
いれてもらうことにしよか」 |
女A |
「わたしもお願いします」 |
男女あわせ、十数人が傘のもとに集結した。
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雨宿り
さん |
「では、しゅっぱ〜つ!」 |
雨脚は強いが、みんなの足取りは軽い。
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男A |
「こんなに大きな傘で、
これだけの大人数が一緒に歩くなんて、
わくわくしますなぁ」 |
女A |
「そうね。
大人の遠足みたいで楽しいわね」 |
皆の衆、軽快に歩いていたのだが、数十メートル進むと。
ブッ!ブッ!
先ほどの芋がきいたのか、
そこかしこからおならの音がした。
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男A |
「いやあ、こいてしまいましたな」 |
ブッ!
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女A |
「わたしも・・・
恥ずかしい・・・」 |
男B |
「いいじゃありませんか。
みんなで屁をこきながら歩くなんて、
それもまた一興ですよ。
どうです。
この先に私の家があります。
極上の日本酒が、
地方の友達から何本も送られてきました。
『熟女盛』に『処女誉』。
そうそう、大吟醸の『大金玉』なんていう
銘酒もありますよ。
このメンバーで、飲みませんか?」 |
女A |
「わたし、『大金玉』大好き!」 |
小林 |
「ではお言葉に甘えて、
一杯いきまひょか〜」 |
女A |
「でも、もしまたおならがでたら、
どうしよう・・・」 |
男B |
「気にしない気にしない。
今宵は『ブッ礼講』ということで」 |
一同 |
「わはははははははは」
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こうして同傘の仲間たちは、ハートフルに交流を深めた。
類まれなる方法で、
そのきっかけをつくった『雨宿りさん』。
かなりの男であることは、間違いない。
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