「もうかりまっか!」
三和土のあたりから、妙にあきんどな声がする。
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北小岩 |
「不穏なものを感じます。
押し売りでなければ
よいのでございますが」 |
不肖の弟子が玄関に急行する。
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北小岩 |
「どなたでございますか」 |
「先生ちゃん、いる?」
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北小岩 |
「どのようなご用件で」 |
「やっと成功しました、と伝えてちょ」
軽い男である。
気が重い弟子であったが、仕方なく
トイレの中で昼寝している先生を呼びにいった。
ドンドン
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北小岩 |
「先生! あっ」 |
小林 |
「痛いやないかっ!」 |
強くたたきすぎたために戸が倒れ、後頭部を直撃した。
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北小岩 |
「申し訳ございません」 |
小林 |
「なんや。
人がふんばりながら、
いい夢見とったのに」 |
意外に器用な男かもしれない。
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北小岩 |
「来客でございます。
やっと成功しました、とのことです」 |
小林 |
「ふむ、やっこさんか。
額面どおりには受け取れんな。
あやつは様々な商売に手を出してきたが、
ことごとく失敗しておる」 |
やっこ
さん |
「でも今回、
ついに大成功したんですよ」 |
小林 |
「こら、勝手に上がってくるんやない。
しゃあない、話してみい」 |
やっこ
さん |
「ボロい商売ですよ、これは。
何せ場所をとらず、人件費は最小単位。
その上日銭が入ります」 |
小林 |
「そんな甘い話あるんかい」 |
やっこ
さん |
「ありますよ。
名づけて『ポケットショップ』。
ボン、キュッ、ボンのグラマーレディが、
100個のポケットがついた
セクシーウェアを着るんです。
ポケットは、
胸、おしり、秘密の部分など、
色々なところについていて、
そこにお菓子が入っています。
客はくじを引き、
指定されたポケットに手を入れて
商品をとることができます。
エッチなお菓子屋さんですね」
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小林 |
「おかし屋やと。
お前はまだバブル期みたいな発想で
商売しとるんかい。
そんな底の浅い似非商いにのるほど、
今日びの客は甘くないで。
それに女性に対しても失礼や」 |
やっこ
さん |
「もちろん、男版もあります。
もっとも男は、
当たりは一ヶ所しかありませんが。
とにかく来てくださいよ」 |
強引に口説かれ、しぶしぶ後をついていくと。
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やっこ
さん |
「あそこです」 |
小林 |
「むっ!」 |
何だかんだと難癖をつけていた先生であったが、
所詮悲しい生き物。
セクシー女性を見ているうちに、
じょじょに興奮してしてしまい。
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小林 |
「うっ、うう〜。
まあ、どれほどのものか、
試してやるか」 |
女性になけなしの一万円を渡し、くじを引いた。
1回500円なので、20回トライできる。
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セクシー
女性 |
「はい。
あなたは、ココとココとココと・・・」 |
やましい心の持ち主に、女神は決して微笑まない。
肩だの足の裏だの、
いまいちのポケットばかりを引き当ててしまった。
世の中には星の数ほどショップがある。
だが、ポケットショップなどは、
消えてなくなった方がいいものの筆頭であろう。
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