パタパタ ザッザッ
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北小岩 |
「先生は
隅々まで気配りできる方なのですが、
整理に関しては、
隅々まで散らかさないと
気がすまないのでございます」 |
弟子は師の猥褻と言ってよいほどに散らかった部屋を、
五時間かけて掃除しているのだが、
いっこうに終わる気配はない。
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北小岩 |
「思い出の品が
そこかしこにございますので、
丁寧に片付けねばなりません」 |
バカ先生にはもったいない弟子なのである。
幾層にも積み上げられたエロ本を、
何往復もして移動させていると。
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北小岩 |
「はて、『俺の日本史』?」 |
古びたノートが、
エロ本とエロ本の間からこんにちはしていた。
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北小岩 |
「そういえば、先生は高校時代、
日本史は全国レベルだったと
自慢されておりました。
このノートから、
片鱗をうかがい知ることが
できるでしょう」 |
弟子は整理の手を休め、ゆっくりとノートを繰った。
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北小岩 |
「なになに?
え〜と。
『歴史の書を紐解くと、
あたかもそれが絶対の
真実であるかの如く語られているが、
歪曲されたまま後世に
伝えられている可能性は、
誰しも否定できるものでは
ないであろう』」 |
人のよい北小岩くんは、手をかたく握ってうなずいて。
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北小岩 |
「なるほど!
それはするどい見解でございます。
考えてみれば、わたくし、
聖徳太子さんにも、源頼朝さんも
お会いしたことがございません。
いえ、現在この世に生ある者で、
その目で見た人など
皆無でございましょう。」 |
ノートは続く。
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北小岩 |
「え〜、
『俺は全国有数の日本史者と自負する。
天から与えられし己の慧眼で、
日本史を詳細にたどってみると、
腑に落ちない箇所が何点も
散見されるのである』。
さすが先生でございます。
たかだか16の齢で、
すべてをお見通しだったのですね」 |
単にうつけ者のほざきであるのだが、
純粋な弟子の瞳は早くも熱いもので潤みだした。
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北小岩 |
「『最初に俺がにらんだのは、
北条政子である。
源頼朝の正室。
頼朝なき後、頼経の後見人となり、
実権を握って尼将軍と呼ばれた。
俺はその史実に異議をとなえる。
文献を丁寧に読み込めばわかることだ。
頼朝の妻は北条政子ではなく、実は
『ほうにょう政子』だったのである。
ほうにょう政子は、
人のものとは思えぬほど大量の尿をし、
それを偶然見てしまった頼朝は、
彼女を大いに恐れた。
征夷大将軍をも
震え上がらせた女として、
政子は『尿将軍』と呼ばれた。
それがあらましだろう』・・・」
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天の政子がもしこのノートを読んだら、
先生など島流しではすまされない。
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北小岩 |
「人それぞれに
歴史の解釈があってよいはず。
先生は果敢にもそれを
実践していたのでございましょう」 |
あくまでも師の肩を持つ弟子。
再びノートに目をうつすと。
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北小岩 |
「え〜と、『時代は進み江戸末期』。
光陰矢の如しでございますね。
『龍馬から日ノ本第一の人物と慕われ、
江戸城無血開城に導いたといわれる
勝海舟という男。
しかし、俺の目はごまかせない。
きっとそれは、
かつ丼海舟の間違いであっただろう。
かつ丼海舟がもしも牛丼海舟だったら、
咸臨丸で渡米した際に
ビーフボウル海舟と呼ばれ
(以下続く)』。ふう・・」
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悲しいため息がこぼれた。
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北小岩 |
「わたくし、
先生のことを尊敬して止みません。
しかしこのノートは、
読むだけ時間の無駄でございましたね」 |
現在の日本史が、どの程度の正確さで記されているのか。
それは神のみぞ知る。
しかし、先生のように詭弁を弄し歴史を語るものに、
決してごまかされてはならない。
朽ちかけたノートから得られる真実は、
先生は高校時代全国カスレベルであり、
日ノ本最下位の男だった。そんなところだろうか。
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