KOBAYASHI
小林秀雄、あはれといふこと。

しみじみとした趣に満ちた言葉の国日本。
そんな国のいとおもしろき言の葉を一つ一つ採取し、
深く味わい尽くしていく。
それがこの項の主な趣向である。



其の弐百拾九・・・酔っぱらい

ぴゅ〜っ。ざざっあ〜。うはうは。

北小岩 「あっ、
 竹箒で集めた木の葉が、
 風に嬲られております」
小林 「スケベな風が、
 木の葉のケツでも
 おさわりしとるんやろ」

庭を掃き清めていた弟子に、
ちりとりを握り締め阿呆のように佇む馬鹿先生が、
意味のない言葉を投げかける。

北小岩 「それにしても冷えますね」
小林 「俺のちんこも、
 こちんこちんや」

シャレたつもりであったが、よけいに場を寒くした。

小林 「それはそうと、
 今日の寒さは尋常やない。
 久しぶりに夜の街に繰り出し、
 ぽっかんぽっかんに
 あったまってみるかいな」

二人は熱燗にゲソでちびちびやるために、
ボロ市で20円で購入したコートを羽織り、
颯爽とおでん屋『汁』に向かって歩き出した。

北小岩 「さすがに忘年会シーズンでございますね。
 早くも千鳥足な方がいらっしゃいます。
 むっ、
 あそこにいらっしゃる年配の方、
 お酒に酔っているようには見えませんが。
 あっ、危ない!
 ドブに落ちてしまいます!!」

しかし、その男はドブに背を向けると、
ふちに足をかけて体を弓なりに反らし、
どう見ても不利な体勢なのに、
決して落ちることはなかった。

小林 「なあ、北小岩。
 この時季確かに酒の酔っぱらいは多い。
 だがな、酔うのは何も
 アルコールだけとは限らんのや」
北小岩 「と申しますと?」
小林 「あのおっさんは酒ではなく、
 相撲に酔っているんや!」
北小岩 「なんと!」
小林 「相撲ファンにとって12月は、
 11月場所で今年の大相撲が終了し、
 ほっとひと息の月や。
 そこで今時分、
 一年の相撲酔いが、がぶり寄ってくる。
 おっさんは往年の相撲ファン、
 それも初代貴ノ花びいきやな。
 だから、土俵際にめっぽう強い。
 『はっけ酔い』という酔っぱらいや」
北小岩 「わたくし、『はっけ酔い』という酔いを
 初めて耳にいたしました。
 不覚でございます」

小林 「お前のように
 いつの日か風流を極めようという男には、
 人間観察は最重要項目や。
 目ん玉びっこんびっこんにして、
 街の人々をよ〜く観察してみい」
北小岩 「そういえば、あそこにいる
 白いミンクのコートを着た
 毒々しいアイシャドーの女性、
 お酒以外のモノに酔っている気が
 いたします」
小林 「なかなか鋭いやないけ。
 あれはクラブ『赤貝』のチーママで、
 『やよい』という名の女や」
北小岩 「ということは、
 『や酔い』という酔いなのですね」
小林 「そうやな。
 この一年間男を酔わせ続けてきたから、
 その成分が体の中にたまり、
 年末に自分に酔いが回ってきてしまった。
 自家中毒みたいなもんやな」
北小岩 「なるほど!
 むこうの女性は
 屁を我慢しすぎてしまった
 『屁酔い』ですね」
小林 「お見事!
 我が弟子よ、
 飲み込みが早くなったなっ!!」


先生の話では、
睦み事を楽しんだ男女のうち
上に乗っていた方に起こる『乗りもの酔い』、
かつらでごまかしている人に起こる『毛酔い』など、
師走には様々なものに酔ってしまった酔っぱらいが
街を闊歩しているという。
皆様も観察してみると、楽しいですよ!

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2008-12-14-SUN

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