ぴゅ〜っ。ざざっあ〜。うはうは。
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北小岩 |
「あっ、
竹箒で集めた木の葉が、
風に嬲られております」 |
小林 |
「スケベな風が、
木の葉のケツでも
おさわりしとるんやろ」 |
庭を掃き清めていた弟子に、
ちりとりを握り締め阿呆のように佇む馬鹿先生が、
意味のない言葉を投げかける。
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北小岩 |
「それにしても冷えますね」 |
小林 |
「俺のちんこも、
こちんこちんや」 |
シャレたつもりであったが、よけいに場を寒くした。
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小林 |
「それはそうと、
今日の寒さは尋常やない。
久しぶりに夜の街に繰り出し、
ぽっかんぽっかんに
あったまってみるかいな」 |
二人は熱燗にゲソでちびちびやるために、
ボロ市で20円で購入したコートを羽織り、
颯爽とおでん屋『汁』に向かって歩き出した。
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北小岩 |
「さすがに忘年会シーズンでございますね。
早くも千鳥足な方がいらっしゃいます。
むっ、
あそこにいらっしゃる年配の方、
お酒に酔っているようには見えませんが。
あっ、危ない!
ドブに落ちてしまいます!!」 |
しかし、その男はドブに背を向けると、
ふちに足をかけて体を弓なりに反らし、
どう見ても不利な体勢なのに、
決して落ちることはなかった。
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小林 |
「なあ、北小岩。
この時季確かに酒の酔っぱらいは多い。
だがな、酔うのは何も
アルコールだけとは限らんのや」 |
北小岩 |
「と申しますと?」 |
小林 |
「あのおっさんは酒ではなく、
相撲に酔っているんや!」 |
北小岩 |
「なんと!」 |
小林 |
「相撲ファンにとって12月は、
11月場所で今年の大相撲が終了し、
ほっとひと息の月や。
そこで今時分、
一年の相撲酔いが、がぶり寄ってくる。
おっさんは往年の相撲ファン、
それも初代貴ノ花びいきやな。
だから、土俵際にめっぽう強い。
『はっけ酔い』という酔っぱらいや」 |
北小岩 |
「わたくし、『はっけ酔い』という酔いを
初めて耳にいたしました。
不覚でございます」
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小林 |
「お前のように
いつの日か風流を極めようという男には、
人間観察は最重要項目や。
目ん玉びっこんびっこんにして、
街の人々をよ〜く観察してみい」 |
北小岩 |
「そういえば、あそこにいる
白いミンクのコートを着た
毒々しいアイシャドーの女性、
お酒以外のモノに酔っている気が
いたします」 |
小林 |
「なかなか鋭いやないけ。
あれはクラブ『赤貝』のチーママで、
『やよい』という名の女や」 |
北小岩 |
「ということは、
『や酔い』という酔いなのですね」 |
小林 |
「そうやな。
この一年間男を酔わせ続けてきたから、
その成分が体の中にたまり、
年末に自分に酔いが回ってきてしまった。
自家中毒みたいなもんやな」 |
北小岩 |
「なるほど!
むこうの女性は
屁を我慢しすぎてしまった
『屁酔い』ですね」 |
小林 |
「お見事!
我が弟子よ、
飲み込みが早くなったなっ!!」
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先生の話では、
睦み事を楽しんだ男女のうち
上に乗っていた方に起こる『乗りもの酔い』、
かつらでごまかしている人に起こる『毛酔い』など、
師走には様々なものに酔ってしまった酔っぱらいが
街を闊歩しているという。
皆様も観察してみると、楽しいですよ!
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