「ぷっ!」
「げぎょっ!」
道行く人々が失笑しながら歩いていく。
その目線の先には、二人の阿呆がいた。
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北小岩 |
「寒さが身にしみますねえ」 |
小林 |
「俺なんか、
下腹部の体積が
人よりずば抜けて大きいもんやから、
冷え込みは人一倍や」 |
愚にもつかぬ発言は、
そこいらのゴミ箱に捨てておくとして、
人々が苦い汁を飲まされたような
複雑な笑いを浮かべたのは、
二人が耳に軍手をつけていたからである。
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北小岩 |
「先生もわたくしも、
非常に弱いですからね」 |
師弟の耳はまるで童子のようで、
気温が3度を下回ると
すぐに霜焼けになってしまうのである。
しかし、イヤーウォーマーなどという
こじゃれたものを持っているはずも無く、
泥で汚れた軍手をはめているのだ。
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小林 |
「いつもなら
1時間半かけて歩いていくところやが、
今日はバスに乗っていこか」
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そんなに寒いのなら、
エロ古本市になど行かなければよいのに。
ともかく、寒風を避けながら、
後ろ向きに歩いて停車場に到着した。
そこは町のどん詰まりで、
人々から折り返しと呼ばれていた。
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小林 |
「相変わらずバスが方向転換しとるな」 |
北小岩 |
「ここに来るのは数年ぶりですが、
以前は人がまばらでした。
なのになぜこのように
大勢いるのでございましょうか」 |
小林 |
「多いだけやないで。
目ん玉を金玉のように、
キラキラ輝かせて凝視してみい」 |
北小岩 |
「はっ、
やってきた人が
あそこで折り返していきます!」 |
「そうじゃ。ここは折り返しの名所になっておるんじゃ」
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北小岩 |
「あなたは?」 |
折り返し
じいさん |
「わしはな、
ここで折り返す者たちの
幸せを祈っている、
自称『折り返しじいさん』じゃ」 |
北小岩 |
「そうなのですか。
戻っていったあの方は、
かなり真剣な面持ちでしたが」 |
折り返し
じいさん |
「彼は今がポコチンの折り返し点だと
決めたんじゃな」 |
北小岩 |
「と申しますと?」 |
折り返し
じいさん |
「仮にポコチンを使える年月を、
己で50年と定めるんじゃ。
彼は今がその半分だと決意した」 |
小林 |
「後25年で
オスとしてのポコチン寿命が
尽きるわけやな」 |
折り返し
じいさん |
「そうじゃ。
そんな事をして何になると
思うかもしれないが、
そう決めたやつは一様に
清々しい表情をしておる。
もちろん、ポコチンだけじゃない。
人生そのもの、サラリーマン生活、
結婚生活、片想い、趣味、社長在任、
スポーツ現役、浪人生活など、
様々な思いを胸に、
ここにやって来るんじゃ」 |
北小岩 |
「今犬が来ましたが」 |
折り返し
じいさん |
「人間だけではなく、
犬や猫、なめくじやカマドウマ、
いろんな生き物にとっても同じことじゃ。
この間など、
バキュームカーのホースが来ておったな」 |
北小岩 |
「生きているのでございますか?」 |
折り返し
じいさん |
「生き物とは言えないが、
吸い取っている時にはにょろにょろ動く」
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小林 |
「おっ、
小股が深く切れまくったいい女が来るで。
彼女のHな所業期間も、
あと半分かいな。
うはうは」 |
折り返し
じいさん |
「そうじゃないじゃろ。
きっと手前の角で曲がるな。
彼女はお肌の曲がり角なんじゃよ」 |
とある町の折り返し点。
日夜、決意を固めた者たちが、訪れては去っていく。
その顔はまるでつき物が落ちたようだという。
あなたもこの冬、折り返してみてはいかがですか。
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