ゴシンチョゴシンチョゴシンチョ。
|
北小岩 |
「いくらこすっても、
あたたかくなりません」 |
小林 |
「これじゃあかえって、
健康に悪いわな」 |
年始に行なわれる褌羽根つき大会に出るため、
体を鍛えようと早朝庭で乾布摩擦を試みたのだが、
タオルを三回上下させただけで折れた。
三日坊主にすらなれない。
|
小林 |
「しゃあない、
ジョギングに切り換えるか」 |
家に駆け込み鳥肌をなだめると、
安物のらくだシャツを2枚着込んだ。
|
小林 |
「ここでめげたら
並の男に成り下がってしまうわな」 |
並みの男より遥かに下なので、
上記の言はまったく筋違いであるが、ともかく家を出た。
|
北小岩 |
「血液が隅々まで
行き渡る気がいたしますね」 |
血の巡りが悪い弟子が、
白い息を吐き出したその時だった。
「うほ〜〜〜〜ほいほほほ」
町唯一の寺、『切れ寺(きれじ)』の境内から
奇妙な声が漏れてきた。
|
北小岩 |
「一大事かもしれません」 |
二人はなぜか早ギャロップで寺の門をくぐった。
|
小林 |
「なんや、あれは!」 |
阿呆先生が叫んでしまったのも無理はない。
小柄な坊主が撞木を鉄棒のようにして、
逆立ちしながら体を動かし鐘を撞いたのだ。
|
北小岩 |
「どうしたことでございましょうか。
うっ、うわ〜」 |
弟子の股ぐらから剃髪頭がにょきっと出たと思ったら、
素早く戻り、その際後頭部が玉金をとらえた。
|
玉金坊主 |
「大晦日に向けて
除夜の鐘を打ち鳴らす修行をしているんだ。
野郎はアクロバッチック除夜の鐘の達人だ」 |
北小岩 |
「あの体勢で百八回撞くのでございますか」
|
股間を押さえながら訊ねた。
|
玉金坊主 |
「もちろんだ。
さらに我が道を行くものもおる。
あそこをみよ」 |
そこには薪をくべられていない五右衛門風呂が鎮座。
冷たさに耐えつつ、僧侶が水面に鼻を近づけていた。
|
玉金坊主 |
「奴は水に入って屁を百八発かまし、
己で吸うことにより煩悩を除く」
|
北小岩 |
「難儀でございますね。
わたくしができそうな事は、
何かあるのでしょうか」 |
玉金坊主 |
「そうだな。
陰毛を百八本抜く。
乳首を百八回ハサミ虫に挟ませる。
そうそう、金の玉をミニ撞木で撞く。
その時はゴーンではなく、
キーンという音がするんだがな」 |
小林 |
「なるほどな。
ところであんたは何をするんや?」 |
玉金坊主 |
「ごっ、ごほん。
わたしかね」 |
北小岩 |
「弟子があれほど厳しい修行を
されているのですから、
壮絶なことをなさるのでしょう」 |
玉金坊主 |
「いやな。
わたしは仏像の後ろにこっそり隠れて、
ぱっつんぱっつんのいい女と
百八回キスをするんだ」 |
なんという生臭坊主であろう。
だが、百八の煩悩を除くのは鐘だけでなく、
屁や陰毛、乳首、キスなども同列におかれていることは、
注目に値するだろう。
もういくつ寝ると大晦日である。
|