「何があけたのかと、聞いとるんじゃ!」
「申し訳ありません。
深く考えずに言葉を使っておりました」
新年早々、通りすがりの老人にやり込められた後、
ボロボロの案山子の如く立ちすくんでいたのは
北小岩くんの友、
珍歩劣(ちんぽおとる)氏であった。
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小林 |
「どうしたんや。
尿道がふさがったような顔をして」 |
珍歩 |
「あっ、先生。
それに北小岩くん。
実をいいますと、
道ですれ違った見知らぬおじいさんに
『あけましておめでとうございます』と
挨拶したところ、
何があけたのかと厳しく問い詰められ、
返答に窮してしまいました」 |
小林 |
「どうせまた、ケツの穴があけたのか、
女性の秘所があけたのか、
はっきりせいと言われたんやろ。
普通に年があけたといえばええこっちゃ」 |
珍歩 |
「そうなんです。
しかし、勢いに押されているうちに、
年があけたのではなく、
女性の秘所がぱっくり口をあけたことが
おめでたいような気になってしまいまして」 |
北小岩 |
「災難でしたね」 |
珍歩 |
「です。
それはそうと、あそこのお家、
窓からお父さんらしき人が
見え隠れしていますが、
動きが奇妙なんです。
2種類のカレンダーを右手と左手で持ち、
擦り合わせているような」 |
小林 |
「カレンダーの筆おろしをしてるんや」 |
珍歩 |
「へっ?」 |
小林 |
「この町の正月は、他とはかなり異なる。
年始はまず、
カレンダーの交尾から始める。
年明け前に掛けられているカレンダーは、
どことなく頼りない。
童貞だからや。
カレンダーには男カレンダーと
女カレンダーがあるので、
ズバッと筆おろしさせる。
それでいっちょ前にし、
今年の日々を堂々と示せるようにするんや」
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珍歩 |
「私は故郷では
物を知りすぎている男と
呼ばれておりましたが、
それはまったく存じませんでした」 |
その時。
「うおっき〜〜〜ん!」
向こう正面の広場で、男が宙を舞った。
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珍歩 |
「何が起こったのでしょうか?」 |
北小岩 |
「股間羽根つきですね。
左右にトランポリンを置き、
金玉に羽根をつけた男が
ジャンプして移動します。
ベッドに着床する前に着物の女性が、
羽子板で打ちます。
その痛みに耐えつつ、
男性は商売繁盛を祈り
再び跳躍するのです」
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小林 |
「昨年なんか、
俺が信じられんほどの活躍をしたで。
何せ玉がデカいから、
お嬢様方の打ち損じがなかったからな」 |
そんなことはない。
標的が小さすぎて誰も打てずに、追放されたのだ。
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珍歩 |
「なかなか粋な町ですね」 |
うぎょ〜っ!
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珍歩 |
「今の叫びは?」 |
北小岩 |
「門松肛門初めです。
尖った竹の上に座って、
苦しいことなんかシリませんの年にします」 |
珍歩 |
「・・・」 |
先生と弟子が暮らす町は、
ろくでもない正月を過ごす。
町角には昨年のサンタクロースの抜け殻が
多数落ちていて、その髭を陰部につけて踊る者や、
大晦日に陰毛を剃り初毛出(はつもうで)と呼んで、
新年に生えてきた毛を愛でる輩もいる。
寺には局部賽銭箱があるが、語るべきものではない。
カルタのかわりにカルテといって、
大人がお医者さんごっこのようなこともする。
馬鹿な町に住む馬鹿な人たち。
新年がおめでたいというより、頭がおめでたい。
ただそれだけの話であろう。
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