「俺がどう動くかで、世界経済が変わってくるな」
隣人が恵んでくれた石焼き芋。
包んであったくしゃくしゃの経済新聞を目で追いながら、
すかしっ屁ほどの価値もない法螺を吹いているのは
小林先生であった。
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北小岩 |
「お芋はほかほかですが、
世界のエコノミーは冷え冷えですね」 |
小林 |
「そうやな。
我々もばっこんと、
防衛策を講じねばあかんやろな」 |
策などといっても、
小林先生らはもともと収入は雀の尿ほどもなく、
切り詰めるものはほとんどない。
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小林 |
「これから先2年間は、
古エロ本を買わんようにするわ。
同志を集めて、交換すればええ。
そういう意味では、
エロ本もスワップの時代に入ったんやな」 |
世界がどうなろうとも、この先生に意味などはない。
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北小岩 |
「そうでございますね。
わたくしもよっちゃんイカを食す回数を、
年1回にいたします。
それからお茶は茶柱を急須に1本入れて、
ぐるぐる回しながら淹れたいと思います」 |
もともとスケールが小さい男らであるが、
やることがさらにミクロになる。
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小林 |
「でもなあ、
そういうことでもないような気がするな。
そや!
韋駄天僧に聞いてみるか」 |
韋駄天僧といえば町の精神的支柱。
心技体すべてに優れているが、
特にその俊足は暴走ボブスレーともいわれている。
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小林 |
「ここいらへんで待っておればええやろ」 |
北小岩 |
「そうでございますね」 |
キャーッ!
100メートルほど手前で、ギャルの悲鳴があがった。
韋駄天僧が猛スピードで駆け抜けたため、
一陣の風が季節はずれのミニスカートをまくり上げたのだ。
ウハーッ!ウハーッ!!
町の男衆はそんな僥倖を、何よりの楽しみにしていた。
「獅子舞柄のパンティーだった!」
と鼻の下を伸ばしきった。 |
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韋駄天僧はずばぬけた叡智を持った名士なのであるが、
足が速すぎるために
民衆が知恵をさずけてもらおうと思っても、
一瞬で通り過ぎてしまう。
なお、僧は局部に糸瓜をベースにして作った
ハブ型のペニスケースをつけている。
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北小岩 |
「こちらに向かってまいります」 |
小林 |
「油断するんやないで」 |
弟子はぱっくり口をあけた
メスマングースの剥製を掲げると、進路を塞いだ。
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韋駄天僧 |
「うお〜〜〜。
キキ〜〜〜!」 |
僧のハブがメスマングースの口におさまり、
急ブレーキがかかった。
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韋駄天僧 |
「危ないではないか!
もうすこしでペニスケースが
折れるところだったわ。
もしぽっきんとなってみろ。
ケースの中にはこっちんこっちんに
息子がつまっとるから、
使い物にならなくなってしまうわ!」
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北小岩 |
「申し訳ございません!
実はお坊様にひとつ質問がございまして」 |
韋駄天僧 |
「なんだ?」 |
北小岩 |
「現在日本は、いや世界は、
粗塩で揉まれた陰毛のように、
ちりへにゃになってしまっております。
この大不況でわたくしたちも、
古エロ本やよっちゃんイカの購入を
控えることにしました。
しかし、それだけでは」 |
韋駄天僧 |
「そうだな。
こういう時に出費を減らすのは
致し方ない。
だが、それだけではダメだ。
減らした分だけ、愛を増やすんだ。
『出費を減らして、愛を増やす』
これじゃ!
だが、それがなかなかできん。
収入が減り、支出も減ると、
愛まで大幅に減ってしまう。
人間、よいときには何の問題もない。
だがひとたび状況が悪くなると、
それだけのことで
仲がギスギスしてしまい、
離婚にまで至ることもあるんだな。
悲しいではないのか。
そんな時こそ心から妻を愛し、
夫を愛し、子を愛し、親を愛し、
恋人を愛し、友を愛し、隣人を愛し、
にわか雨を愛し、犬を愛し、
カマドウマを愛し、蟻の門渡りを愛し、
ケツの穴を愛し、チンチンを愛し・・・。
とにかく愛を増やすことじゃ!」 |
言い終えるやいなや、人間離れした勢いで走り出した。
そこには先ほどのギャルがいて、
再びスカートがめくれた。
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小林 |
「そうや、僧の言う通りや!
森羅万象、
様々なものを愛さにゃあかん。
俺はまず、
あの娘のパンティーを愛するで。
お嬢さん、その獅子舞の」 |
ギャル |
「何見てんのよ!
このドスケベ野郎!!」 |
ギャルの放った電光石火の回し蹴りが、
先生の鼻をとらえた。
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小林 |
「うお〜、目の前に火花が〜〜〜。
僕は回し蹴りを愛し、
火花を愛し」 |
ボクッ!!
蹴りの第二弾が後頭部を襲った。
倒れこんだ場所に、うん悪く巨大なウンが落ちていた。
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小林 |
「犬の糞を愛し・・・」 |
そのまま悶絶してしまった小林先生。
そんなものは捨てておけばよい。
だが、収入が減り、支出を減らしたら、
その分愛を増やすこと。
それは実践せねばならないだろう。
僧の教えを胸に、
朗らかな心でサバイバルしていきたいものである。
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