先生が闘いにやぶれた猿のように肩を落とし、
一点を凝視している。
|
北小岩 |
「どうなされましたか。
お顔も上気しております。
僭越ながらわたくし、
全力でお力になりたいと存じます」 |
小林 |
「そう言われてもなあ」 |
先生の手には一枚の葉書が握られている。
|
小林 |
「俺の高校時代の友だち、
Mを知っとるやろ。
彼から寒中見舞いが届いたんや。
やつのお父さん、なくなってたんやな」 |
北小岩 |
「それはご愁傷様でございます」 |
小林 |
「喪中とは知らずに
俺は年賀状を出してしもうた。
それは仕方ないにしても、
こちらの郵便番号を記載する欄に、
『ちんぽでか男君』と
たわけたことを書き、
お年玉宝くじの牛の絵には、
『プ〜〜〜〜〜〜!』と
屁が出たように描いてしもうたんや。
喪中の男に送る年賀状やないやろ」
|
北小岩 |
「先生はいい歳をして
まだそんなくだらな」 |
小林 |
「いい歳?
くだらない?」 |
北小岩 |
「いえ、めっそうもございません。
先生のご友人にとって
今年がいい年であることを
心から願わずにおられないと
申し上げようとして」 |
小林 |
「まあええわ。
それにしても今日は寒いな。
心まで凍えそうや・・・」 |
しょげかえる師を見て放っておけない弟子は。
|
北小岩 |
「先生は
尋常ではない寒がりでございますよね。
今の季節、就寝時には
布団を7枚かけていらっしゃいます。
夜中に布団の重みで首が締まって、
『うううぎゃほわ〜〜〜』と
うなされながら
お目覚めになることもございます。
わたくし、
そんな先生をあたためるために、
様々な防寒対策を考えてまいりました」 |
小林 |
「北小岩・・・、
お前ってやつぁ」 |
先生の目があたたかいもので満たされた。
|
北小岩 |
「今年の日本の経済状況ですと、
どうがんばってもなかなか
賃上げまでは望めそうもありません。
そこで自分のチンを上げながら
あたたかくなるのです。
ネックストラップの
先についている輪っかを己自身に通し、
首で引っ張る形にします。
その刺激で、チンが熱を発し、
寒さをひと時
忘れることができるでしょう」 |
小林 |
「自らチン上げに挑むポジティブさは、
評価できるな」 |
北小岩 |
「次は歌麿キムチでございます。
キムチを食べると、
体がポカポカしてまいります。
それを応用するのです。
食用のキムチは食べやすいように
裁断されておりますが、
歌麿キムチは違います。
丸ごと一株漬けるのです。
それから唐辛子、にんにくなどを加え、
味をととのえます。
2日ほど冷蔵庫で熟成させ、
それをイチモツに装着。
つまりキムチがイチモツを
食べる形にするのです。
最初は冷んやりですが、時間がたてば
芯からあたたまってくるでしょう」 |
小林 |
「発想は悪くないが、
白菜を丸ごとイチモツで支えられるような
豪の者は、それほどおらんやろ」 |
北小岩 |
「でしたらこれは。
わたくし、試作品を作ってまいりました。
尻ばさみと申します。
この巨大な洗濯ばさみ状のもので、
お尻の山と山を閉じる形で締めます。
そうすればお尻の肉が熱をもち、
ぬくぬくすることができましょう。
先生は落ち込まれておられますが、
尻ばさみをすれば憂いも吹き飛びます。
どうぞご装着ください」 |
言うやいなや、弟子は先生のケツを尻バサミで挟んだ。
|
小林 |
「いっ、痛いやんけ〜〜〜〜〜。
こら、早くとらんかい〜〜〜!」 |
北小岩 |
「う〜〜〜〜〜〜〜〜〜ん!
申しわけございません。
わたくしの非力では、
外すことができません!」
|
小林 |
「けっ、ケツが割れる〜〜〜。
いや、ケツは最初から割れとった。
ケツの穴で呼吸ができ〜〜〜〜〜ん」 |
北小岩 |
「しばしお待ちを!
町外れにお住まいの元幕下力士・
玉出し山を呼んでまいります!」 |
先生、あんたはケツの穴で呼吸をしとるんかい、
と突っ込みを入れたくなるものの、
思ったよりも事は重大であった。
弟子が玉出し山を連れて戻ってきた時には、
先生のケツは真っ青になり、卒倒してしまっていた。
防寒具にもいろいろある。
だが、まだ試験段階にあるものは、
軽い気持ちでトライしないほうがいいだろう。
極度の寒がりの方は、特にお気をつけくださいませ。
|