「この町に来たのは、10年ぶりだなあ」
「もうそんなになりますか。
時の流れは早いものでございます」
北小岩くんの学生時代の友人は、
隣町のエロ本市を訪れたついでに、
ぶらっとなつかしの場所に立ち寄ってみたのだ。
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北小岩 |
「あっ、
カレンダーさんでございます。
お早うございます!」 |
カレンダー
さん |
「ああ、どうも」 |
北小岩 |
「これぐらいの髪の伸びですと、
もうすぐ三月ですね」 |
友人 |
「?」 |
町の
おじいさん |
「おう、カレンダーさん。
その長さじゃと、
これからはあたたかくなる一方じゃな」 |
カレンダー
さん |
「そうですね」 |
この町には、暦に関して何らかの目安があるようだ。
友人は怪訝な顔つきで、北小岩くんに訊ねた。
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北小岩 |
「実はですね、
カレンダーさんは毎年三月一日に
スキンヘッドにするのです。
そのまま一年髪を伸ばし、
また翌年の三月にスキンヘッドにします。
ですから、カレンダーさんの髪が
どれくらい伸びているのか見ると、
今が何月かわかるのです。
つまり彼は、
町のカレンダーになっているのです」 |
友人 |
「なるほど。
重宝な人だな」
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北小岩 |
「それだけではございません。
カレンダーさんは
わたくしたちに月を教えてくれますが、
奥様には特別に
日にちも教えているのです」 |
友人 |
「どうやって?」 |
北小岩 |
「月の初めに陰毛を剃るのです。
一ヶ月伸ばし、
そして次の月初めに
またキレイに剃ります」 |
友人 |
「奥さんは彼の頭を見て何月か教えられ、
股間を見て何日かを知るわけだな」 |
北小岩 |
「そうなのです」 |
友人 |
「奥さんだけの
スペシャルカレンダーか。
夫婦仲にいい影響を与えそうだな」 |
北小岩 |
「わたくしたちは仲睦まじい二人のことを、
『じんじろ夫婦』と呼んでおります」 |
友人 |
「‥‥‥」 |
そこに通りかかったのが。
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北小岩 |
「あっ、十年カレンダーさん!
なんと髪の毛を剃っております!!」 |
町の
おじいさん |
「ということは、
もう十年たったんじゃな。
あの頃は、俺の友だちも
まだみんな元気じゃったし、
ほんのたまにじゃが
屹立することもあったなあ‥‥‥」 |
おじいさんが涙ぐむ。
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北小岩 |
「10年カレンダーさんは、
10年に一度スキンヘッドにします。
そこから伸ばし続けますので、
氏が再び毛無しになっていたら、
10年の歳月が流れたことがわかるのです」 |
友人 |
「う〜む。
この町にはとっても地味だが、
町に役に立っている人が多いんだな」
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第35代アメリカ大統領ジョン・F・ケネディは、
就任演説で語った。
あなたの国があなたのために何をしてくれるかではなく、
あなたが国のために何ができるのか問うてみようと。
カレンダーさんたちは、
町のために何ができるのかを問い、実行している。
金の力に頼らずに、町の役に立つことは、
まだまだたくさんあるであろう。
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