KOBAYASHI
小林秀雄、あはれといふこと。

しみじみとした趣に満ちた言葉の国日本。
そんな国のいとおもしろき言の葉を一つ一つ採取し、
深く味わい尽くしていく。
それがこの項の主な趣向である。



其の弐百参拾壱・・・今は亡き

庭の片隅に、やさ男が一人。

北小岩 「それだけの実力をお持ちなのに、
 土の中にお隠れなのでございますね」

不肖の弟子が、おもちゃのシャベルを片手に、
ひとりごちていた。
ズームしてみる。
土を掘り返し何かに話しかけているようだ。

北小岩 「あなたは男子がおしっこを引っ掛けると、
 大事なところを腫らすという
 伝説をお持ちですね。
 わたくしには
 そのような力はございません。
 わたくしには何の力も
 ないのでございます・・・」

ミミズに最敬礼したまま動かない。

小林 「そんなところで何しとるんや?
 糞でももらしたんかい」

先生のセリフは、肩を落としている人にも、
幸せの絶頂にある人にも、ある意味平等である。

北小岩 「あっ、先生。
 実は・・・。
 わたくしなどこの世に存在しても
 何の意味もなく、
 このまま漠然と生きながらえても
 仕方ないのではないかと。
 いっそのこと、この世から
 消えてしまった方が
 よいのではないかと・・・」
小林 「そういう気分の時は誰にでもある。
 しゃない、あれをやるかな。
 北小岩、裏庭の蔵に
 木魚があるからとってきてくれんか」
北小岩 「はい」

と答えたものの、果たして蔵に木魚などあったか。

北小岩 「ふう。
 物凄い埃でございます。
 むっ、これは!」

カリの高い細長いリンの左右に、
金玉型の木魚がついている。
どうみても、ちんぽにしか見えない。
これぞ小林家に先祖代々伝わる金玉木魚。

北小岩 「先生、これのことでしょうか」

小林 「そうや。
 お前、白いパジャマに着替えろ。
 そして布団を敷いて胸の前で手を組み、
 目をつぶって寝てみい」
北小岩 「はい。
 何だか自分が屍になったような
 気がいたします」
小林 「それじゃあ始めるで」

ポコポコチーン。ポコポコチーン。

先生が木魚とリンをたたき、
寂しげな声でつぶやいた。

小林 「今は亡き北小岩。
 お前がつけあがるといかんと思い、
 今まで黙っとった。
 街角のファッションビルの
 エステ店長の香織さん。
 グラビアアイドル顔負けの
 ぱっつんぱっつん女性や。
 実は彼女がお前をえらく気に入っててな。
 身も心もささげてもいいとまで
 言っとったんや」
北小岩
くんの心
「(心だけでなく身も!!!!!!)」

ポコポコチーン。ポコポコチーン。

小林 「今は亡き北小岩。
 俺はずっとお前に厳しくあたっていたが、
 本当は目の中に入れても痛くないほど
 かわいく思っていたんや。
 俺の僅かな収入の中から、
 お前が少しでも質のいいエロ本を
 買えるように、へそくりを溜めていた。
 便所の木製の金隠し。
 あそこの中に
 金(かね)も隠しとったんやな」


どうやら先生は、北小岩くんが死んでしまったこととし、
今まで言いそびれてしまったことや
気恥ずかしくて口に出せなかった思いなどを、
このシチュエーションを借りて、
素直に伝えようとしているらしい。

ポコポコチーン。ポコポコチーン。

小林 「今は亡き北小岩。
 お前はよっちゃんイカが
 何より好きだった。
 俺は7000時間かけて
 町のすべての道を歩き、
 ついによっちゃんイカを
 2割引で売ってる店を見つけたんや。
 お前が喜ぶ顔が見たくてな」

ポコポコチーン。ポコポコチーン。

小林 「今は亡き北小岩。」
北小岩 「せっ、先生!
 わっ、わたくしは
 これからも生き続け・・・。
 ううう」

布団から飛び出した北小岩くんの目からは、
熱いものが溢れていた。先生は静かにうなずいた。

誰にでも、心がくじけ、
自分などこの世にいない方がいいと
深刻になってしまうことはある。
金玉木魚をたたきながら、
まわりの人たちがどれだけその人を
大切に思っているか飾らずに伝えること。
それはひとつの励ましになるかもしれない。

小林秀雄さんへの激励や感想などは、
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2009-03-08-SUN

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