「よいしょ〜!」
「よいしょ〜!」
昼日中から、まぬけ面で四股を踏んでいるのは、
ご存知阿呆先生&頓馬弟子。
彼らは町の境界である橋の真ん中の線に
蟻の門渡りを合わせ、必ずこの動作をするのである。
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小林 |
「さあ、隣町に入りまひょか〜」 |
意味がないので、無視することとしよう。
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北小岩 |
「このあたりも、
随分変わったお家が増えましたね」 |
小林 |
「そうやな。
あそこの屋根を見てみい」 |
北小岩 |
「うっ!」 |
屋根の上に、
何本ものちんちん状のモノがそそり立っている。
キューポラのある街ならぬ、
チンポラのある街である。
「あれは、避雷チンというものです」
いつの間にか、
自分の頭にも避雷チンを立てた男が横にいた。
頭部に雷が落ちれば
オー! NO(脳)!! になるが、
おかまいなしだ。
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北小岩 |
「ここ数年で、
この町の家も
だいぶ変わってきたようですね」 |
避雷チン男 |
「そうですな。
家に詳しい私でも、
かなりびっくらこきこきですよ。
案内いたしましょう」 |
頼んでもいないのに、勝手にガイドを買ってくれた。
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避雷チン男 |
「ここから徒歩5分のところに、
意表をついた家がたくさんありまっせ」 |
意表をついた家?
ろくなものではなさそうだが、
二人は金魚の下痢フンのように、後をついていった。
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避雷チン男 |
「ここですな」 |
ここですといわれても、空地に間隔をあけて、
人がただ立っていたり
座っていたりするだけのようにしか見えない。
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北小岩 |
「家らしきものが、
どこにも見あたりませんが」 |
避雷チン男 |
「甘いですなあ。
一言ことわって、
中に入ってみてください」 |
北小岩 |
「そうでございますか。
大変申しわけございませんが、
おじゃましてもよろしいですか」 |
空地に佇む
男A |
「どうぞ、お入りなさい」 |
どこが入口だか、とんと見当がつかぬ。
疑心暗鬼で弟子が一歩踏み出すと。
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北小岩 |
「くっ、臭いでございます!」 |
空地に佇む
男A |
「早く入りなさい!
目に見えないと思いますが、
ここにはちゃんとドアも壁もあります。
おならの匂いで、作っているんです」 |
北小岩 |
「なんと!」
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空地に佇む
男A |
「そこにある脚立を上って御覧なさい」 |
北小岩 |
「うぐっ! 再び臭いでございます」 |
空地に佇む
男A |
「三階建てなんですよ。
天井も屋根も、もちろんありますよ」
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小林 |
「見事や!
屁っきん臭クリート三階建て
というところやな」 |
避雷チン男 |
「あなたは、あちらのお宅にどうぞ」 |
先生が用心しながら、入っていくと。
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小林 |
「むむっ、これは!」 |
そう。
そこは音で作られた家だったのだ。
その領域に入ると、今まで聴こえなかった
「♪おめこおめこおめこ〜」というメロディーが
耳に飛び込んできた。
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避雷チン男 |
「この場所には、匂いでできた家、
音でできた家を始め、光でできた家など
様々なものがございます。
光でできた家は、
日が傾くと小さくなっていくという、
儚いお家です。
それぞれ、結構間取りも
しっかりしているんですよ」
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家と聞けば固定観念から、
形の見えるものを想像してしまう。
だが隣町には、そんな常識を復す戸建てが
続々登場しているのである。
この動きには、しばし注目したい。
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