小林 |
「随分ポカポカしてきたな」 |
北小岩 |
「これからは、股間も蒸れますね」 |
新緑が美しいこの季節。
二人はお互いのぞき見ないようにし、
縁側で陰毛にひなたぼっこをさせている。
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小林 |
「我が毛も冬に比べると、
イキイキしとるわな」 |
言われてみれば、そんな気もする。
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北小岩 |
「蟻が数匹やってきて、
毛の並木を散歩しております」 |
小林 |
「陽気がいいし、
家族でピクニックでもしとるんやろ」 |
そんなことはないだろう。
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北小岩 |
「庭のつるも伸びてきていますね」 |
小林 |
「つるつるつるやな。
つるつる・・・。
なあ、急に
ラーメン食いたくなってこんか?」 |
北小岩 |
「いいですね。
ぜひ、つるりましょう」 |
二人は骨董の壺を桐の箱におさめるように、
陰毛を大事そうに褌に仕舞い、
隣町のはずれにある行列のできるラーメン店裏の
『珍万楼』に向かった。
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北小岩 |
「以前拾った雑誌で
拝見したことがございます。
女性用、男性用のラーメンが
あるそうですね。
あっ、ここでございます」 |
弟子が露払いとなり、金玉色の暖簾をくぐる。
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北小岩 |
「あそこの席で、
色白細面の女性が
召し上がっております。
女性用ラーメンでしょうか」 |
小林 |
「上品なおなごは、
すすり方まで艶っぽいわな」 |
北小岩 |
「むっ、あの動きは!
わたくし、興奮してきてしまいました」 |
珍万楼
店主 |
「お二人さん、初めてかな」 |
小林 |
「そうや。
もしかすると、あのラーメンは!!」 |
世にも変わったラーメンである。
麺は超極太のものが一本だけ。
男が人差し指と親指で、
輪っかを作ったぐらいの太さなのである。
女性は超極太麺を頬張る形になっているのだが、
熱さと太さのせいで奥まで飲み込めず、
くわえたまま顔を上下させているのだ。
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珍万楼
店主 |
「『フェラーメン』といいます。
解説は野暮というものでしょう」
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北小岩くんが己を屹立させてしまうのも、
無理はなかった。
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小林 |
「奥の席に座っている、
よれた背広を着た男たちが
食べている麺は、なにやら貧相やな」 |
丼の中には、伸びきった麺、千切れたなると、
擦り切れた焼き豚が漂っていた。
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珍万楼
店主 |
「哀愁の『サラリーメン』です」 |
北小岩 |
「あれはなんて言うのでしょう。
丼の上に
お面のようなものが置かれていて、
恐怖心を煽られるのですが」 |
小林 |
「エジプトな感じがするな」 |
珍万楼
店主 |
「『ツタンラーメン』ですね。
食べる人によっては、
呪われてしまうこともあるようです」
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北小岩 |
「ひえ〜〜〜〜〜〜」 |
雑誌で話題のラーメン店珍万楼。
ここならではのメニューが多いのは確かであるが、
積極的に食べたくなるようなものは、皆無である。
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