ぶんぶんぶ〜ん!
「これっ、あっちへいきなさい!」
瞬間移動するかのように、
花を求めて鋭い動きを繰り返す一匹の蜂。
「わたくしが吸うのでございます!」
気の強そうな蜂に果敢に立ち向かうのは、
気の弱そうな北小岩くんであった。
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小林 |
「お前がマン花(まんばな)の
蜜が大好物で、
毎年この時期に
ちゅ〜ちゅ〜しとるのはわかっとる。
だが、蜂と取り合いするのも、
ちょいと大人げないというか、
人間げないというか、
そんな気もするんや」 |
先生は形状が卑猥な花を、
勝手にマン花と呼んでいる。
そんな名前で呼ばれるぐらいなら、
雑草と呼ばれた方がどれほど幸せなことだろう。
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北小岩 |
「この蜜は特別なのです。
わたくしにとって、蜜と言うより、
ミッチーと言っても
過言ではございません」 |
師も師なら、弟子も弟子。
繰り出す言葉にまったく意味がない。
「やって来ましたが・・・」
裏木戸から、輪をかけて無意味な訪問者が現れた。
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北小岩 |
「わたくしの友でございます」 |
小林 |
「挨拶が中途半端やな」 |
心底友思いの北小岩くんは、
中途半端な友の表情が、
いつにもまして中途半端なことに気づいていた。
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北小岩 |
「深刻な話が
あるようでございますね。
中でじっくりうかがいましょう」 |
台所からこぶ茶とよっちゃんイカ、
そして特別に
ソースせんべいをつけて差し出した。
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中途半端
な友 |
「僕がもてないことは、
みなさまご承知の事と思います」 |
先生が満足そうにうなずく。
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中途半端
な友 |
「とはいうものの、
先日、小股の切れまくった女性と
トントン拍子に事が運びまして」 |
先生の表情が般若にかわる。
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中途半端
な友 |
「あなたなら、
ブラジャーの上から
胸を触っていいわ、
ということになりました」 |
北小岩 |
「凄いではございませんか!」 |
中途半端
な友 |
「ところが・・・。
彼女は触らせてくれる前に、
ブラをかえてくるから待っててね、
と言ったのです」 |
北小岩 |
「ぞくぞく」 |
中途半端
な友 |
「僕はてっきり
セクシーブラに
かえてくるのかと思い、
ウハウハになってしまいました。
でも彼女がつけてきたのは、
『ブラタワー』というものでした」 |
北小岩 |
「ブラタワー?」 |
中途半端
な友 |
「両胸からブラがタワーのように
突き出ているのです。
僕はその先端を
くりくり触らせてもらったのですが、
本物の胸からは
50センチも距離がありました。
それでも僕は、彼女の胸を
触ったことになるのでしょうか?」
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小林 |
「びみょ〜やなぁ」 |
中途半端
な友 |
「それでも二人と
も結構興奮してしまいまして、
彼女はわたしのすべてを
あなたにあげると言って、
コンドーさんを
手渡してくれたのです』 |
小林 |
「ほほう」 |
本来なら怒りまくる小林先生であるが、
事が簡単には進んでいかないだろうことを
察知し、余裕をかましている。
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中途半端
な友 |
「装着してみると、
先端まで5メートルもあるのですよ。
彼女は先っぽを持って
隣の部屋に行き、
恥ずかしいからこっちに来ちゃダメ、
と言いました。
その後彼女はコンドーさんを
迎え入れたらしいのですが、
僕は彼女と関係を持ったことに
なるのでしょうか?」 |
小林 |
「びみょ〜やなぁ」
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世の中には、白黒つけがたい微妙なことが
数多く存在する。
今回のケースは、その最たるものであろう。
もっとも、議論するには値しない、
どうでもいいことではあるのだが。
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