「ぶるぶるぶる。
夜の便所は、大人になっても大の苦手でございます」
人並みはずれた怖がり人間の北小岩くん。
夜中に大の便意を催してしまった。
どうしても行きたくなかったので、
肛門にガムテープを貼ってみたのだが、
無駄な抵抗だった。
ついに便所に駆け込み。
「こっ、こわっ〜。
んっ、そうです!
何かいやらしいことを考えればよいのです。
そうすれば怖さなんて吹き飛びます。
さて、何を妄想いたしましょうか。
ふむふむ」
便所の下に小窓がある。
その窓を開けると向こうで小股の切れまくった美女が、
ローションのお風呂でみだらに入浴している。
そんな場面を無理やり想像しようとした。
「う〜む。
なかなかうまくいきません。
もう少し窓に顔を近づけてみれば・・・」
その時だった。
「電報で〜す!」
「うわ〜っ!」
びっくらこいた北小岩くんは、
用を足す姿勢のまま後ろにひっくり返ってしまった。
「まさかこんな夜更けに、
それも厠の小窓から電報が届くとは
思いもよりませんでした。
何でございましょう」
うす暗い便所の中で、
蛍光塗料で書かれた文字が光った。 |
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『今、隣町でライトアップをしています。
ぜひ来てね。
でも、いやらしい人は、
絶対に連れて来ないでくださいね』
「これを書いたのは、女性に違いありません。
ぜひ、訪れてみましょう。
小林先生は、連れて行ってはいけないようですね」
弟子は師を起こさぬよう、そっと玄関を出た。
「それにしても、
いったい何をライトアップしているので
ございましょうか」
気がかりなまま、隣町に急行すると。
「あっ、向こうから来る女性は、
乳首だけをライトアップしております!」
かわいらしい蕾のようなやわらかな突起は、
北小岩くんをゆりかごで揺られている気分にさせた。
「あの女性は、
唇だけにライトを当てているのですね」
わずかに開き、艶やかに光る薄い唇に
思わず引き込まれる。
すると突然、後ろから肩をたたかれた。
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透ける
ピンクの服を
まとった女性 |
「あなたは北小岩さんですね」 |
北小岩 |
「はい、そうです」 |
透ける
ピンクの服を
まとった女性 |
「今宵はこの町にとって、
年に一度の特別な日。
それぞれの女性が、
自分の体の中で一番好きな部分を
ライトアップして歩く日なのです」 |
北小岩 |
「そうなのですか」 |
横切っていった女性は、股間を照らしている。
だが、いやらしさは微塵もない。
凛とした佇まいに、
北小岩くんは思わず最敬礼をした。
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北小岩 |
「耳たぶを光らせている方も、
お尻の穴を光らせている方も
いらっしゃいます。
しかし、どの方のどの部分も、
一様に優美ですね」
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透ける
ピンクの服を
まとった女性 |
「そうなのです。
うなじも、指先も、瞳も、陰毛も、
くるぶしも、おへそも、わきの下も、
すべて美しさをたたえているのです。
しかし、あなたのところにいる、
邪心の塊のような
先生と呼ばれている男などには、
女性の持つ部分部分の、
細部に宿る美しさは
伝わらないでしょう。
ですから私たちは、
あなただけを招待したのです。
いかがですか、北小岩さんも」 |
北小岩 |
「はっ、はい」 |
ピュアな心を持った弟子が照らしたところは、
予想通りだった。
そのご立派を目にした女性たちの頬に、
ぽっとあかりが灯った。
年に一度、女性がライトアップする夜。
北小岩くんにとっては、夢見心地の時間であった。
だが、これが結局何を物語っているのかは、
よくわからない。
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