しとしとぴんぴん しとぴんぴん
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北小岩 |
「また雨でございますね」 |
小林 |
「そうやな、
股間もじくじくしてくるわ」 |
外出を控えたくなる天気ではあるのだが、
小林家に籠もったところで、
何百回読んだかわからぬエロ本を
再読するだけのことである。
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小林 |
「ちょいとそこまで、
散歩でもするか」 |
先生の傘は半分が骨むきだしになっているので、
前方にいないと差していることにならない。
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北小岩 |
「雨中に歩を進めるのも、
風流でございますね」 |
弟子の傘は軸がふにゃちんのように
しなだれているので、
手首でスナップをきかせないと用をなさない。
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小林 |
「この季節、
とにかくでんでん虫から学びたいわな」 |
相変わらず意味のない事を口走りながら、
そろ〜りと歩く。
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北小岩 |
「先生、例年の梅雨景色と
どこか違うような気がいたしませんか」 |
小林 |
「なんや?
雨をシャワーがわりに浴びている
全裸美女軍団でもおるんかい」 |
北小岩 |
「それは望むところなのでございますが、
まったく異なります。
町行く人の傘に、
趣向が凝らされている気がするのですが」 |
小林 |
「確かにそうや。
あそこのおなごの傘は、
水槽状の凹みがあり、
金魚を飼っているな」 |
北小岩 |
「優雅でございますね」 |
小林 |
「向こうにいる威勢のいいにいちゃんは、
闘魚やな」
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突っ張りにいさんの手にしている雨よけには、
闘魚(ベタ)が二匹入れられているため、
頭上で死闘が繰り広げられているのだ。
ギャンブル好きの人たちが、
取り巻いて賭けをしている。 |
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北小岩 |
「ピアノの鍵盤のように、
雨粒によって美しい調べを
奏でている傘もございます」 |
小林 |
「あそこのアームレスラーみたいなヤツは、
雨がぎょうさん溜まるように
細工しとるわ。
腕を鍛えながら歩いとるんやな。
ダンベル傘といったところや」 |
北小岩 |
「水滴が落ちた瞬間、
ジュッという音を立てて蒸発する、
高熱を発しているものもあるようです」 |
小林 |
「むっ、あれはなんや!」 |
北小岩 |
「何かはわかりませんが、
かなり猥褻であることは確かでございます」 |
「あれこそが、正真正銘の相合傘じゃな」
いきなり話に割り込んできたのは、
素っ裸でずぶぬれになっているのだが、
イチモツの頭の部分にだけ傘をさしている、
亀頭傘次郎吉という老人であった。
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亀頭傘
次郎吉 |
「目ん玉ひん剥いて、よく見るんじゃ。
あの睦まじき男女の傘には、
局部がついとる。
男の傘には男のモノ、
女の傘には女のモノ。
それを挿入しながら、
肩寄せあって歩いとるんじゃ。
揺れがいい感じのピストン運動になって、
興奮してくるんじゃな。
ほら、逆さクラゲに入っていきおったわ」
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小林&
北小岩 |
「・・・」 |
雨の季節を苦手としている人は多い。
だが、それを逆手にとって、
傘で楽しもうという人が増えてきたのは、
さすが風流の国日本と言っても、
言い過ぎにはならないであろう。
まだ黎明期。
これからどんな趣向が飛び出すのか、注目してみたい。
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