女A |
「あっ、蛾が入ってきちゃった!」 |
女B |
「嫌ね。殺虫剤とって!」 |
シュー!シュー!
「あっ、蛾亜子(があこ)〜〜〜!
早く逃げて!こっちよ!!」
人には聞き取れないのだが、
親友が攻撃されているのを見て、
網戸の外から叫び声をあげたのは、
メス蛾の蛾美(がみ)であった。
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蛾美 |
「危なかったわね」 |
蛾亜子 |
「網戸が破れていなかったら私・・」 |
蛾美 |
「どうして私たちだけ、
こんなに嫌われなければならないの!」 |
蛾亜子 |
「そうよ!
蝶はあんなに好かれているのに。
ほとんど変わらないというのに・・・」 |
蛾美 |
「もう許せない!」 |
殺虫剤を噴射した二人の女が外出すると、
二匹の蛾は仲間とともに後をつけた。
女たちは、プールに向かったのだ。
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女A |
「私たちの白ビキニで、
ボーイズをイチコロにしましょ」 |
女B |
「そうね。
ん? キャー!」 |
金切り声を聞いて、
ボーイズがいっせいに振り向いた。
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ボーイズ |
「なんだありゃ?」 |
そして失笑。
蛾たちは白ビキニに、
一方はちんぽの形になるように、また一方は
秘所から間抜けな髭が生えているように
止まったのだ。
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蛾美 |
「さあ、行きましょ!」 |
溜飲を下げたものの悲しさは募るばかりだった。
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蛾亜子 |
「外国では蛾も蝶も区別せずに、
同じ単語で表現する国が結構あるんだよ」 |
蛾美 |
「そうなんだ・・・」 |
その時、通りの向こうから
アホ面下げた男たちがやって来た。
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小林 |
「おっ、蛾やな」 |
蛾たちは、また理不尽なことを
されるのではないかと思い、身構えた。
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小林 |
「蛾はかっこええなあ」 |
北小岩 |
「そうですね。
シックな色調が、
ハイセンスでございますね」 |
小林 |
「よく見ると、かわいらしい目をしとるわ」 |
北小岩 |
「美形でございますよね」 |
蛾美 |
「えっ?」 |
小林 |
「行動も一途で好感が持てるわな。
灯りに向かって飛び、
ひっそりと死んでいくものもおる」 |
北小岩 |
「その潔さ。
武士道に通ずるものがございます。
わたくし、いつしか蛾さんのように、
りっぱな生き物になることが
目標でございます」 |
小林 |
「ええ心がけや」 |
蛾亜子 |
「こっ、この人たち・・・」 |
思わず涙をこぼす蛾の女の子たち。
どちらかといえば日陰の身で、
同類である師弟。
蛾に向けるまなざしは、どこまでもやさしい。
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小林 |
「何や?
北小岩の方に、寄って行くわ。
おっ、ほっぺたに止まった。
俺の方にも来たわい」 |
北小岩 |
「少しばかり、こそばゆいでございますね。
でも疲れていらっしゃるのでしたら、
わたくしの頬でよければ、
ゆっくりしていってください」 |
それはメス蛾たちのキスであった。
師弟はそんなこととはつゆ知らず、
ぴんからトリオの名曲「女の道」をうなりながら、
銭湯へ歩いていった。
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