KOBAYASHI
小林秀雄、あはれといふこと。

しみじみとした趣に満ちた言葉の国日本。
そんな国のいとおもしろき言の葉を一つ一つ採取し、
深く味わい尽くしていく。
それがこの項の主な趣向である。



其の弐百伍拾壱・・・蛾

女A 「あっ、蛾が入ってきちゃった!」
女B 「嫌ね。殺虫剤とって!」

シュー!シュー!

「あっ、蛾亜子(があこ)〜〜〜!
 早く逃げて!こっちよ!!」

人には聞き取れないのだが、
親友が攻撃されているのを見て、
網戸の外から叫び声をあげたのは、
メス蛾の蛾美(がみ)であった。

蛾美 「危なかったわね」
蛾亜子 「網戸が破れていなかったら私・・」
蛾美 「どうして私たちだけ、
 こんなに嫌われなければならないの!」
蛾亜子 「そうよ!
 蝶はあんなに好かれているのに。
 ほとんど変わらないというのに・・・」
蛾美 「もう許せない!」

殺虫剤を噴射した二人の女が外出すると、
二匹の蛾は仲間とともに後をつけた。
女たちは、プールに向かったのだ。

女A 「私たちの白ビキニで、
 ボーイズをイチコロにしましょ」
女B 「そうね。
 ん? キャー!」

金切り声を聞いて、
ボーイズがいっせいに振り向いた。

ボーイズ 「なんだありゃ?」

そして失笑。
蛾たちは白ビキニに、
一方はちんぽの形になるように、また一方は
秘所から間抜けな髭が生えているように
止まったのだ。

 
蛾美 「さあ、行きましょ!」

溜飲を下げたものの悲しさは募るばかりだった。

蛾亜子 「外国では蛾も蝶も区別せずに、
 同じ単語で表現する国が結構あるんだよ」
蛾美 「そうなんだ・・・」

その時、通りの向こうから
アホ面下げた男たちがやって来た。

小林 「おっ、蛾やな」

蛾たちは、また理不尽なことを
されるのではないかと思い、身構えた。

小林 「蛾はかっこええなあ」
北小岩 「そうですね。
 シックな色調が、
 ハイセンスでございますね」
小林 「よく見ると、かわいらしい目をしとるわ」
北小岩 「美形でございますよね」
蛾美 「えっ?」
小林 「行動も一途で好感が持てるわな。
 灯りに向かって飛び、
 ひっそりと死んでいくものもおる」
北小岩 「その潔さ。
 武士道に通ずるものがございます。
 わたくし、いつしか蛾さんのように、
 りっぱな生き物になることが
 目標でございます」
小林 「ええ心がけや」
蛾亜子 「こっ、この人たち・・・」

思わず涙をこぼす蛾の女の子たち。
どちらかといえば日陰の身で、
同類である師弟。
蛾に向けるまなざしは、どこまでもやさしい。

小林 「何や?
 北小岩の方に、寄って行くわ。
 おっ、ほっぺたに止まった。
 俺の方にも来たわい」
北小岩 「少しばかり、こそばゆいでございますね。
 でも疲れていらっしゃるのでしたら、
 わたくしの頬でよければ、
 ゆっくりしていってください」

それはメス蛾たちのキスであった。
師弟はそんなこととはつゆ知らず、
ぴんからトリオの名曲「女の道」をうなりながら、
銭湯へ歩いていった。

 

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2009-07-26-SUN

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