びゅ〜
「あっ、
どこまで読んだか
分からなくなってしまいました」
読書の最中、
どんぶらこどんぶらこと
船を漕いでいた弟子の北小岩くん。
完全に眠りに落ちると
読み終えたページが行方不明になるので、
トイレットぺーパーの切れ端をはさんでいたのだが、
風に持っていかれてしまったのだ。
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北小岩 |
「わたくし、記憶力がひ弱で、
何度も何度も同じところを
読んでしまいます。
今回も同じ轍を踏んでしまいそうです」 |
いま一度書物に目を通してみるのだが、
やはり迷子になってしまっていた。
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北小岩 |
「仕方ございません」 |
常人の数倍鼻が効く優男は、
ページの匂いを嗅いで、
そこに自分の指の匂いがついていないか
確かめてみた。
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小林 |
「何しとるんや。
エロ本のおなごの秘所を嗅いでも、
ウハウハな香りはせんで」 |
相変わらず品性にかけることをほざきながら
近づいてきたのは、ご存知馬鹿先生。
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北小岩 |
「そうではございません。
わたくし、
十返舎一九の東海道中膝栗毛を
楽しんでいたのでございますが、
風で栞がわりの
トイレットペーパーが飛び、
どこまで進んだのか
わからなくなってしまったのです」 |
小林 |
「その栞は危険やな。
便利とはいえ、
万一便がついとったら一大事や。
かわいい弟子のために、
おニューな栞を買うたるわ」 |
北小岩 |
「先生・・・」 |
涙もろい弟子の目から、熱いものがこぼれた。
畳の上でそれを見ていた小さなクモは、
迷惑そうにジャンプし熱いものをよけた。
二人は町唯一の栞専門店
「しおりのおしり」に向かった。
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小林 |
「たのもう!」 |
先陣を切り、場違いな台詞で暖簾をくぐっていく師。
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小林 |
「我が愛弟子に、
栞をプレゼントしようと思うんやが、
似合いのものを見繕ってくれや」 |
しおりの
おしり店員 |
「そうですね。
これなんかはいかがですか」 |
店員が持ってきたのは、イカ型の栞だった。
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しおりの
おしり店員 |
「栞をしたまま、
結局先を読まない人が、
結構いるんですね。
そこで当店は、
オリジナル商品を開発しました。
この栞をはさんでおくと、
二日まではそのままなのですが、
三日目を過ぎたころから、
イカ臭い匂いを発するようになります。
本を読まずに一週間たつと、
本にしっかりと
蒸れたイカ臭がついてしまいます。
読書をうながす栞ですね」 |
小林 |
「北小岩にぴったりな気もするが、
他にはどうや」 |
しおりの
おしり店員 |
「では、こちらはいかがでしょうか。
従来の栞は書物に挟みこむものが
主流でしたが、
書物を巻いて栞でとめるのです」 |
小林 |
「?」 |
店員は張り型を持ち出し、
デモンストレーションを始めた。
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しおりの
おしり店員 |
「これがあなたのイチモツとして、
ページを開いて巻きつけます。
そして、とれないように
亀頭型ハット栞をかぶせるのです。
イカ型栞の
生タイプとでも申しましょうか」 |
北小岩 |
「うかがうまでもございませんが、
そのまま本を何日も読み進めなければ」 |
しおりの
おしり店員 |
「もちろん、強烈にイカ臭くなります」
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読みかけの本が、
そのままつん読に終わってしまうことは
多々あるだろう。
読書の続きを栞がうながすという着眼点は
悪くはない。
だが、あまりに発想がイカ臭い。
もっとも、北小岩くんには不似合いであったため
薦められなかったのだが、
カプセル型栞もあるという。
読まずに数日経過するとカプセルが破れ、
中から紙食い虫が出てきて
本を食べてしまうんだとさ。
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