ちりーーーん ちりーーーん
ひゅ〜、どろどろどろぅぅぅぅぅ〜〜〜
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郵便屋さん |
「ゆうびんですよぉぉぉぉぉ〜〜〜] |
北小岩 |
「は、は、は、
はいぃぃぃぃぃ〜〜〜」 |
郵便屋さんのおどろおどろしい声色に、
恐怖の色を浮かべつつ受け取ったのは、
弟子の北小岩くんであった。
ちなみに
「ひゅ〜、どろどろどろぅぅぅぅぅ〜〜〜」は、
わざわざ郵便屋さんがラジカセを持ってきて、
効果音を出したのであった。
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北小岩 |
「また、
この季節が巡ってきてしまったのですね」 |
沈痛な面持ちで手紙を握り締めていると。
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小林 |
「今年もあの会に出ないとあかんのかな」 |
弱肉としての勘が尋常でなく鋭い先生が、
手紙の内容を透視した。
実は先生と北小岩くんは、大の怖いもの嫌い。
しかし、今の時期になると、
必ず恩師から怪談の会への誘いが届くのだ。
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小林 |
「やはり恩師の誘いは断れんな・・・」 |
会は奥深い山の洞窟で行われる。
二人は鈍行を乗り継ぎ、
山道を7時間歩いて洞窟にたどり着いた。
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恩師 |
「やあ、まってたぞ。
今年もとびきりの怖い話を
用意しているからな」 |
洞窟の中では蝋燭の灯りが揺れ、
涙を流した仏像がポッとうつしだされている。
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北小岩 |
「昨年の手の話は怖かったですね」 |
小林 |
「そうやな。三ヶ月間
夜のトイレに行けなくなったからな」 |
昨年の話とは、丑三つ時に窓の外に
手だけが貼り付いていて、
それがおいでおいでをしたと思ったら、
いつの間にか窓を通り抜け、
畳を物凄い勢いで這ってきて、
足を上って目の前に迫ってきたというものだった。
二人は怖さを感じると、
なぜか急所を握る癖がある。
迫真の語りに背筋が凍り、
そこを握ったままちぴってしまったのだった。
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恩師 |
「今年の語り部から聞いたんだけど、
昨年同様、手がでてくる話らしいよ」 |
二人の表情に暗雲が垂れ込める。
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今年の語り部 |
「では始めましょうか。
まずは一つ目の話。
二年前、真夜中に私が
トイレで用を足した時のことです。
大便をして、それをしばらく眺めていた。
すると!」 |
師弟は、すでに股間を握り締めている。
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語り部 |
「突然大便からにょきっと手が出てきて!」 |
師弟はおにぎりをにぎる様に、力を強める。
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語り部 |
「大便の匂いを嗅がすために、
あおぎだしたのです!
臭いのなんの!!」 |
小林&北小岩 |
「?」
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二人の股間を握る力が弱まる。
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語り部 |
「では二つ目の話です。
三年前私が
真夜中に屁をこいた時のことです!」 |
師弟は再び股間を握る。
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語り部 |
「屁の匂いの中から手が出てきて、
あおぎだしたのですね!
臭いのなんの!!」 |
二人の手がゆるんだ。
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小林 |
「俺たち、怖い話に強くなったようやな」 |
北小岩 |
「そうでございますね」 |
小林 |
「今年は夜中に、
大手を振るってトイレに行けるわ。
わはははは」
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強くなったのではなく、
明らかに人選ミスであろう。
夜中に手だけが現れる。
それは誰にとっても、怖ろしい。
だが、大便や屁の匂いをあおぐと、
とたんに怖くなくなってしまう。
考えてみれば、不思議な事である。
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