小林 |
「北小岩〜! お〜い、北小岩〜!」 |
弟子を呼ぶ師の声が響き渡る。
|
小林 |
「ここかいな」 |
便器には、はまっていなかった。
|
小林 |
「それともここかいな」 |
箪笥と壁のすき間にも、挟まってなかった。
|
小林 |
「へんやなあ」
庭に目をやると。 |
小林 |
「お前、何しとるんや!」 |
巨大な虫捕り網の中に入り、地面に転がっていた。
|
北小岩 |
「実はわたくし、
夏の終わりが近づきますと、
切なくなってしまうのでございます。
それで夏のひとこまを
体現しておこうと思いまして、
網に捕らえられておりました」 |
小林 |
「なるほどな。
だが、俺の友人には、
もっと年季が入ったヤツがおる。
行ってみよか」 |
二人は涼を楽しみつつ訪れようと思い、
氷屋さんからもらった板状の氷で作った
下駄を履いたのだが、
あまりの冷たさに耐え切れず、
途中から裸足になった。
|
小林 |
「直糞を踏むような、
アホアホなことは避けるんやで。
むっ、しまった!」 |
言ったそばから巨大なブツを踏み抜いてしまった、
アホアホ先生であった。
|
小林 |
「糞もついたが、とにかく着いたわ」 |
門からのぞくと、夏を体現する男は上半身裸で、
庭で仰向けになっていた。
|
北小岩 |
「あの股間は!」 |
テント型パンツを履いているのだが、
イチモツの力で立派にテントが
張り切った状態になっているのだ。
|
小林 |
「夏といえばキャンプやからな。
見事な形で張らせ続けるために、
新鮮なエロ本を
何時間も読み続けとるんや」 |
北小岩 |
「そうでございますか」
|
しばらくすると夏を体現する男は、
テントを脱いだ。
手を伸ばして何かを引き寄せると、
玉金のそばにセットした。
|
小林 |
「鹿(しし)おどしやな」 |
夏を体現する男が竹に向かって放尿すると、
すぐに傾き始めた。
コーン
竹が玉金に当たって、風流な音を立てた。
|
小林 |
「いい音させるために、玉を鍛えとる。
そして、尿が出続けるように、
水を飲み続けとるんや」 |
信じられないことに、
それから数十分コーンコーンは続いた。
しばらくして、鹿おどしをはずすと菊の花を食べ、
瞑想に入った。
|
|
|
北小岩 |
「今は何をしているのですか」 |
小林 |
「お墓参りやな。
ヤツの持論はこうや。
『先祖から脈々と
受け継がれてきたもので、
俺の体はできている。
先祖は墓ではなく、
俺の体の中にいる。
だから、自分の体の中に、
お墓参りに行くんだよ〜ん』」 |
北小岩 |
「なるへそ。
今、自分の意識を体に入り込ませ、
拝んでらっしゃるのですね。
菊の花はお供えでございます」 |
夏を体現する男。
彼は長時間裸でいたために、
蚊に二百ケ所以上刺されてしまった。
イチモツは、
ピンクのぶつぶつが浮いた金棒になっている。
蚊に刺されるというのも、
まさに夏そのものであろう。
|