日に焼けた男たちが歩いてくる。精悍ではない。
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小林 |
「ヒリヒリするわ」 |
北小岩 |
「いたたでございますね」 |
史上最低の先生と弟子は、
今年最後の海水浴に繰り出したのであった。
ヒリヒリするのは日焼けのせいではない。
なぜか両人とも、
巨大なプラモデルの箱を抱えている。
5時間ほど時を巻き戻してみよう・・・。
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北小岩 |
「もうすぐ海水浴場でございますね」 |
小林 |
「うむ。あそこを見てみい」 |
北小岩 |
「水中メガネが捨てられております。
それも都合がよいことに二つ」 |
小林 |
「神様が俺たちを
極上気分にさせるために、
放棄してくださったんやな」 |
それほど大袈裟な事ではないだろう。
ともかく水中メガネを装着し、
砂浜で金玉をにぎりながら
準備体操をしたお馬鹿さんたちは、
海に向かって疾走した。
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小林 |
「水中メガネで泳ぐのは、
初めてやな」 |
北小岩 |
「凄いでございます。
お魚さんたちのヒレの動きまで、
丸見えでございます」 |
驚くほどのことではないのだが、
今まで裸眼で遊泳していた者たちにとって、
別世界であった。
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小林 |
「おっ、あそこに赤貝がおるな」 |
北小岩 |
「底にいるとは限らないのですね」 |
小林 |
「むっ、
貝に指を入れそうなヤツがおる」 |
北小岩 |
「挟まれると危険です。
注意して差し上げましょう」 |
二人はバタ足の速度をはやめた。
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北小岩 |
「もし、そこのお方。
そのままでは指を・・・。
ぎょぎょぎょっ」 |
小林 |
「赤貝やなかった!
女の秘所や!」
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師弟ともにエロ本の読みすぎで、
視力が下降線をたどっている。
それで見間違えた。
海中であるのをいいことに、
カップルでお楽しみ中だったのだ。
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男 |
「何だお前ら!」 |
女 |
「このどスケベ!」 |
パチーン! パチーン!
両人とも頬にびんたをくらった。
メガネを内側から涙で濡らした二人は、
不埒なカップルが群居しているのではと思い、
パトロールしてみると。
いるわいるわ。
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北小岩 |
「ショックでございます。
皆様、水中でみだらなことをさ
れているのですね」 |
先生を横目で見ると、般若の形相にかわっていた。
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小林 |
「帰るで」 |
澱んだ気持ちを胸に、帰宅の途についた。
帰りに買ったプラモデルは、
リモコン付きの潜水艦。
スクリューを鋭利なものに改造し、
猥褻野郎の玉金をえぐってやろうと考えたのだ。
今年はもう海に足を運ばない。
海中警備隊結成は、来年になる。
今から一年かけて、
完璧なものにしようと企てている二人、
どうしようもないことにだけ
本気になるんだよなあ。
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