KOBAYASHI
小林秀雄、あはれといふこと。

しみじみとした趣に満ちた言葉の国日本。
そんな国のいとおもしろき言の葉を一つ一つ採取し、
深く味わい尽くしていく。
それがこの項の主な趣向である。



其の弐百伍拾九・・・声を聴く会

ぶ〜ぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅん
ぶ〜ぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅん

北小岩 「二匹の蚊が
 ランデブー飛行でございますね」

ぶ〜ぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅん ぶ〜ぅぅぅ

北小岩 「わたくしの手に、
 止まりましたでございます」

弟子が標的を定めたその時だった。

小林 「あはれ蚊予備軍や。まあ、許したれ」
北小岩 「とはいえ先生、
 蚊たちは交尾しておりますが」
小林 「なに!」

たとえ虫であろうとも、お楽しみは許さない。
それが先生の芯の強さであるが、
果たしてそんな強さが必要なのか。

小林 「俺がこの手で・・・あわっ」

蚊をつぶしそこねて
縁台から転げ落ちた先生を待ち受けていたのは、
のら猫のフンであった。

小林 「しまった!
 顔からこけたせいで、
 猫糞が目に入ってしまった!」
北小岩 「それでは本当の目くそです。
 猫フンはスモールながらも、
 匂いはビッグでございます」


先生は親にしかられた子供のように
涙をこぼしながら、台所で何度も何度も目を洗った。

北小岩 「御難でございました。
 ところで本日、
 虫の声を聴く会でしたね」
小林 「そうや。
 気分なおしに、
 風流に参加しようやないか」

二人は通称女体山に向かった。
山頂には割れ目がある。

小林 「俺はこの季節が好きでな。
 虫たちの弦楽四重奏を聴くと、
 いい感じで切なくなるんや」

会場に到着すると、宴は始まっていた。

主催者 「ようこそいらっしゃいました。
 さあさ、こちらへ」
小林 「モーツァルトかベートーヴェンか。
 どんな虫楽四重奏を
 堪能させてくれるのか」

師弟は指で掃除した耳をすましてみる。

第一ヴァイオリン虫が奏でる声「イヤ〜ン イヤ〜ン」

第ニヴァイオリン虫が奏でる声「ソコッ ソコッ」

ビオラ虫が奏でる声「アッ アッ」

チェロ虫が奏でる声「イイ〜〜〜〜」

小林 「何や、これは!
 切なくなるどころか」
北小岩 「わたくし、
 いささか興奮してまいりました」
小林 「あそこを見てみい!」
北小岩 「はっ!」

看板には、虫の声を聴く会ではなく、
『虫のよがり声を聴く会』と書かれていた。
非風流人たちには、頃合いであろう。

 

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2009-09-20-SUN

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