縁側で動かない男がいる。旅人だったら、
その物体をお地蔵様だと思ったことだろう。
動かない。
まだ動かない。
瞬きも最小限。
ただ一点を見つめている。
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小林 |
「なんや北小岩、
立ち読みしたエロ本の記憶が
こぼれ落ちないように、
仮死状態になっとるんかい」 |
北小岩 |
「あっ、先生」 |
数時間微動だにしなかった男。
それは弟子の北小岩くんであった。
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北小岩 |
「実はわたくし、
とてつもなく暇だったものですから、
観察していたのです」 |
小林 |
「どうせお前のことやから、
毛が伸びる様子を
己の目で確かめとったんやろ」 |
北小岩 |
「そうでございます!
1日に毛髪が
0.3ミリちょっと伸びるとして、
体毛の伸びが若干遅いと仮定します。
しかし、無我の境地で対すれば、
体毛が伸びる過程を
この目でとらえられるのではないかと
思いまして」 |
小林 |
「それでとらえられたんかい」 |
北小岩 |
「とらえられたようなられなかったような」 |
暇人の行動も、多種多様である。
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小林 |
「もうちょい有意義な暇のつぶし方が
あるかもしれんな。
そや、行ってみよか」 |
どこに行くのか不明だが、
ろくなところではないだろう。
ほとんど石と化していた北小岩くんは、
うまく立ち上がれずに転倒。
庭石の角で、金玉をしこたま打った。
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北小岩 |
「どこへ向かっているのでございますか」 |
小林 |
「たいした人物ではないんやが、
話していると気が休まる男がいてな」 |
二人はかたつむりのようにのんびり歩く。
二時間経過。
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小林 |
「着いたな」 |
薄汚れた門には、肛門とほられている。
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男 |
「あっ、先生!
聞いてくださいよ。
僕は今夏、
ある女性の『サポーター』になろうと
決意したのです。
女性が歓喜したので
さっそく行動に移したのですが、
殴られてしまいました」 |
小林 |
「心底応援しようというのに、
なぜ殴られるんや?」 |
男 |
「応援?
サポーターって、
水着の下に着用するものに
なることではないのですか?」
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この男は
勘違伊三郎(かんちがい・いさぶろう)と
呼ばれている。
ほとんどすべてのことを勘違いしながら、
生きているのだ。
今回、サポーターになるべく
女性の水着下半身内側に張り付いたのだが、
それは完全な誤りであろう。
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勘違
伊三郎 |
「そういえば、三億円事件の犯人は、
よく逃げおおせましたね。
『白パイの男』なんて
そうはいないですから。
乳首が白ければ、
銭湯でもすぐにわかってしまいますしね」 |
北小岩 |
「それは白パイの男ではなく、
白バイの男だと記憶しております」 |
勘違
伊三郎 |
「そうでしたっけ?
僕はそうは思わないな」
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北小岩 |
「伊三郎さんは、
今何に興味を
持っていらっしゃるのですか」 |
勘違
伊三郎 |
「プロ野球が何よりの好物ですからね。
ストーブリーグですよ。
『AF宣言』した選手を、
確実にゲットしたいですね」 |
どう考えても、FA宣言の間違いであろう。
なぜに野球選手がアナ・・・。
この地域で時間をつぶすなら勘違伊三郎。
だが内容がくどすぎて、
長時間の会話には耐えられそうもない。 |