KOBAYASHI
小林秀雄、あはれといふこと。

しみじみとした趣に満ちた言葉の国日本。
そんな国のいとおもしろき言の葉を一つ一つ採取し、
深く味わい尽くしていく。
それがこの項の主な趣向である。



其の弐百六拾弐・・・水道

「トンボでございます」

か細い枯れ枝に止まった複眼に、
尋常でない速度で指を回転させながら近づくのは、
弟子の北小岩くんであった。

「大回転に強いトンボさんなのでしょうか」

数分間全力で回し続け、勝負はついた。

「頭がくらくらしますでございます〜」

誰にも同情されることのないなさけない声で、
その場にへたり込んだ。

「何しとるんや。
 ふにゃふにゃせんと、あそこを見てみい」

突然現れた大馬鹿先生の指差す方を凝視すると、
見慣れない立て看板があり、人だかりしていた。

北小岩 「町長さんからのお達しでございます」
小林 「『俺は町の予算のほとんどをつぎ込み、
 いたるところに水道を作ったのさ。
 水道はその時々で出るものが違うんだよ』。
 なんのこっちゃ?」
北小岩 「どうやら町長さんは、
 水道で勝負に出たようですね」

なぜ今、
この町が水道で勝負しなければならないのか。
それは誰にもわからない。

北小岩 「蛇口をひねるとジュースが出てくる。
 それはわたくしの幼き頃の
 夢でございました。
 もしかすると」
水道に近づき、力を込めて。
北小岩 「あっ、カルピスでございます!」
小林 「ほう。
 町長のヤツ、粋なことをしてくれるわ」

数十メートル離れた水道に、
陸上部長距離の練習を終え、
砂漠のようなノドでたどり着いた部員たちがいた。

部員A 「ああ、水水水水。
 もう、乾きすぎて死んじゃいそうだ」
部員B 「早くしろよ!」

ところが管から出てきたものは。

部員A 「なんじゃこりゃ?
 んっ、パンティーだ。
 それも使用済みだ!
 でっ、でも」


普段ならお宝発見と喜び勇んだのであろうが、
体が危機的状況にある時に必要なものは、
パンティーではなく水であることを知った。

そこから数キロ離れた場所では小火(ぼや)があり。

バケツを
持った男
「俺も火消しに加勢するぜ!」

ひねれどもひねれども放出されるものは、
臭い屁であった。
男は己の無力を悟った。

 

「キャーッ!」

どこからか、うら若き女性の悲鳴が。
管に唇を吸われて取れなくなったのだ。
蛇口をひねると何かが出てくると考えるのは軽率だ。
このように、吸われてしまうこともある。

他の場所では
目を近づけると望遠鏡のようになり女
湯が見られたり、
電話としてしゃべれるものもあった。

普段何気なく接している蛇口。
ひねれば水が出るという固定観念がある。
しかし、意外なものが噴出したり、
吸われる、見られる、しゃべれるなど、
様々な現象が起こりうるのだ。
町長は町の予算を使いきり、
それを知らしめたかったか。
それは誰にもわからない。

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2009-10-11-SUN

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