「はっけよい、のこった!」
「うお〜っ!」
バシッバシッ!
一人ぼっちで行司と力士両方を担当し、
庭のイチョウに張り手を見舞っているのは、
弟子の北小岩くんであった。
「しまった。
激しく動きすぎて、
まわしが外れてしまいました」
本格的なまわしを締めることはかなわず、
バスタオルを代用していたので、すぐにほどけたのだ。
「フルチンで、何しとるんや」
股間をかきながら登場したのは阿呆先生。
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北小岩 |
「立ち合いの練習をしていたのですが、
いま一歩盛り上がらないのです」 |
小林 |
「今から千秋楽の横綱同士の戦いや。
テレビを観ようや」 |
画面に向かって蹲踞の姿勢をとった北小岩くんが、
奇声を発した。
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北小岩 |
「こんちお!
土俵上、幕を持った人がぐるんぐるん、
現れて途切れません!!」 |
小林 |
「そやな。
イマイチ盛り上がらんと、
先ほどお前は言った。
しかし、戦いに挑む時懸賞金がかけられ、
幕を掲げた呼出が回ってくれたらどうや」 |
北小岩 |
「それはもう、やる気が違ってくるでしょう」 |
小林 |
「そこをとらえた方がおる。
この取組が終わったら、行ってみよか」 |
理解できない話であるが、
とにかく二人の後を追ってみよう。 |
小林 |
「おっ、ここや」 |
ネオン街のはずれにあるラブホテル。
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小林 |
「どうもこんにちまん」 |
懸賞男 |
「おう、どうした」 |
小林 |
「弟子に懸賞金の力を教えてやろうと思って」 |
「ひが〜し〜、彼氏の〜玉〜。
に〜し〜、彼女の〜貝〜」
呼出の声が響き、
懸賞幕を掲げた男たちが部屋に入っていった。
彼らは回転ベッドのまわりを回っている。
幕には「株式会社あわび」、「有限会社黒バット」など、
スポンサー名が記されている。
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小林 |
「この方はな、
様々なマンネリを解決すべく
スポンサーから懸賞金を募り、
出している奇特なお方や。
あの恋人たちは倦怠期に入っておるが、
懸賞がつくことにより、燃えたぎるんや」
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案の定ここでは表現できないほどみだらなプレイとなり、
男は何度も天に昇っていった。
いつの間にか行司が現れ、軍配は彼女に。
全裸で手刀をきり、懸賞金をゲットした。
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北小岩 |
「う〜む、なるほど」 |
小林 |
「場所をかえてみよか」 |
先生とその弟子は、
とある民家の窓から中をのぞいてみた。
夫婦喧嘩が始まるところだった。
懸賞幕の男たちが、
ちゃぶ台を前に対峙した夫婦のまわりを回った。
喧嘩はがぜんエスカレート。
奥さんの攻撃になすすべもない夫が、
声をあげて泣き出した。
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小林 |
「今までは力が拮抗していたはずや。
だが、反撃しようもないほどの、
見事な攻めとなった」 |
北小岩 |
「しかし夫婦に懸賞金を出しても、
二人のものになるだけではないでしょうか」 |
小林 |
「甘いな。
あの夫婦は助けあうなどという段階は、
とうの昔に終えてしまっておる。
奥さんの懐がポカポカになるだけやな」
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日本は疲弊し、至る所にマンネリな空気が流れている。
それを打破する鍵は、懸賞金にあるかもしれない。
一戦の前に幕を持った呼出が登場するだけで、
盛り上がることは間違いないであろう。
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