KOBAYASHI
小林秀雄、あはれといふこと。

しみじみとした趣に満ちた言葉の国日本。
そんな国のいとおもしろき言の葉を一つ一つ採取し、
深く味わい尽くしていく。
それがこの項の主な趣向である。



其の弐百六拾伍・・・懸賞

「はっけよい、のこった!」

「うお〜っ!」

バシッバシッ!

一人ぼっちで行司と力士両方を担当し、
庭のイチョウに張り手を見舞っているのは、
弟子の北小岩くんであった。

「しまった。
 激しく動きすぎて、
 まわしが外れてしまいました」

本格的なまわしを締めることはかなわず、
バスタオルを代用していたので、すぐにほどけたのだ。

「フルチンで、何しとるんや」

股間をかきながら登場したのは阿呆先生。

北小岩 「立ち合いの練習をしていたのですが、
 いま一歩盛り上がらないのです」
小林 「今から千秋楽の横綱同士の戦いや。
 テレビを観ようや」

画面に向かって蹲踞の姿勢をとった北小岩くんが、
奇声を発した。

北小岩 「こんちお!
 土俵上、幕を持った人がぐるんぐるん、
 現れて途切れません!!」
小林 「そやな。
 イマイチ盛り上がらんと、
 先ほどお前は言った。
 しかし、戦いに挑む時懸賞金がかけられ、
 幕を掲げた呼出が回ってくれたらどうや」
北小岩 「それはもう、やる気が違ってくるでしょう」
小林 「そこをとらえた方がおる。
 この取組が終わったら、行ってみよか」
理解できない話であるが、
とにかく二人の後を追ってみよう。
小林 「おっ、ここや」

ネオン街のはずれにあるラブホテル。

小林 「どうもこんにちまん」
懸賞男 「おう、どうした」
小林 「弟子に懸賞金の力を教えてやろうと思って」
「ひが〜し〜、彼氏の〜玉〜。
 に〜し〜、彼女の〜貝〜」

呼出の声が響き、
懸賞幕を掲げた男たちが部屋に入っていった。
彼らは回転ベッドのまわりを回っている。
幕には「株式会社あわび」、「有限会社黒バット」など、
スポンサー名が記されている。

小林 「この方はな、
 様々なマンネリを解決すべく
 スポンサーから懸賞金を募り、
 出している奇特なお方や。
 あの恋人たちは倦怠期に入っておるが、
 懸賞がつくことにより、燃えたぎるんや」


案の定ここでは表現できないほどみだらなプレイとなり、
男は何度も天に昇っていった。
いつの間にか行司が現れ、軍配は彼女に。
全裸で手刀をきり、懸賞金をゲットした。

北小岩 「う〜む、なるほど」
小林 「場所をかえてみよか」

先生とその弟子は、
とある民家の窓から中をのぞいてみた。
夫婦喧嘩が始まるところだった。
懸賞幕の男たちが、
ちゃぶ台を前に対峙した夫婦のまわりを回った。
喧嘩はがぜんエスカレート。
奥さんの攻撃になすすべもない夫が、
声をあげて泣き出した。

小林 「今までは力が拮抗していたはずや。
 だが、反撃しようもないほどの、
 見事な攻めとなった」
北小岩 「しかし夫婦に懸賞金を出しても、
 二人のものになるだけではないでしょうか」
小林 「甘いな。
 あの夫婦は助けあうなどという段階は、
 とうの昔に終えてしまっておる。
 奥さんの懐がポカポカになるだけやな」


日本は疲弊し、至る所にマンネリな空気が流れている。
それを打破する鍵は、懸賞金にあるかもしれない。
一戦の前に幕を持った呼出が登場するだけで、
盛り上がることは間違いないであろう。

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2009-11-01-SUN

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