「おっ、おおおのお」
洗面台の前で、無理やり人差し指と親指で
おでこを縮めているのは、
弟子の北小岩くんであった。
「いくら縮めても、離すと戻ってしまいます」
紙粘土ではあるまいし。
「おでこを使って、いやらしいことをしとるな」
耳を傾けるに値しない言辞を弄しながら、
弟子の後ろに位置したのは、
まがいもの先生であった。
|
北小岩 |
「新たなプレイを
開発しているのではございません。
このところ額が広くなってきた
気がいたしまして、
コンパクトにしようと
試みたのでございます」 |
小林 |
「若いうちから小さく
まとまらん方がええな。
町の文化会館に識者が集い、
おでこについて話し合っている頃や。
出向いてみるかいな」 |
二人のおばかさんは、
三歩進んで二歩下がるという、
非常に効率の悪い歩き方で
やっとのこと会館にたどり着いた。
|
小林 |
「さすがにおでこ推進委員会に
出席するだけあって、
それぞれ見事なでこっ八ぶりやな」 |
北小岩 |
「そうでございますね。
おしりのような形をした方も
いらっしゃいます」 |
小林 |
「言うなればアールデコや」 |
意味がないので無視しよう。
|
小林 |
「入ろうやないか」 |
髪の生え際のついた扉を開けると。
|
小林 |
「地味な部位について話しているわりに、
熱い盛り上がりやな」 |
壇上に目をやると。
|
司会 |
「おでこが有効活用されていない現状、
それをどうしていくかですね」 |
おでこ
委員A |
「その通りです。
体の上方で前方を向いているのは
絶好のポジションです。
このような活用はどうでしょう。
ヘイ!」 |
陽気な掛け声にうながされ、男と女が壇上へ。
|
おでこ
委員A |
「ドッキング!」 |
おでことおでこをくっつけると、
ガチャっという音がした。
「ガタン、ゴトン」と声を発しながら、
壇上を列車のように走った。
|
おでこ
委員A |
「ご覧の通り、連結器がついております。
町を歩いている時にも、
相性のいい人と連結できます。
また、おでこに吊革をつけておけば、
満員電車で背の低い人たちが使えますね」 |
司会 |
「それは有効です」
|
おでこ
委員B |
「ぼくはこれです」 |
Bが額を人差し指と親指でこすり、
指をつける、はなす、つける、
はなすと繰り返した。
どうしたことか、
おでこから煙のようなものが立ち上った。
|
おでこ
委員B |
「子供の頃に遊んだ
『ようかいけむり』を応用しました。
こんなところから煙が出たら、
見た人は腰を抜かさんばかりに
驚くでしょう」 |
司会 |
「確かに!」
|
その他にも、
おでこにグー or チョキ or パーを描いて
家を出て、すれ違う人と
じゃんけん勝負をするなどの
レクリエーション的な案も出ていた。
おでこはほとんどの場合、活かしきれていない。
この会議を参考にしない手はないであろう。
|