「郵便です」
「ウメ〜」
「だめでございますよ」
ウメ〜というのは、ヤギの鳴き声である。
隣家で子ヤギを放し飼いにしているのだが、
先生宅の郵便を食べて困っている。
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北小岩 |
「今度とびきりのエロピンナップを
差し上げますから、
今日のところはお引き取りください」 |
ヤギを帰らせ手紙を読むと。
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北小岩 |
「北国の、春さんからですね。
なになに。
もう初雪でございますか。
すっかり冬なのでございますね」 |
小林 |
「そやな。
そろそろ家も、冬支度せんとな」 |
北小岩 |
「あっ、先生」 |
小林 |
「隣町では、
もう支度が済んだらしいで。
ちょいと出かけて、参考にするか」 |
北小岩 |
「はい」 |
二人は意味もなく逆方向に200メートルほど歩いてから
向きを変え、隣町に向かった。
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北小岩 |
「どのようなことをされているのか。
わくわくいたしますね」 |
小林 |
「ささやかなものから
ビッグスケールのものまで、
バラエティにとんどるらしい」 |
北小岩 |
「あれは何でしょうか。
手相見のようなことをしておりますが」 |
近づいてみると。
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小林 |
「手相ではないな」 |
北小岩 |
「占い師のようなおじさんが、
運命線や知能線などに、
スポイトでお湯を流しております。
しかし、どうして」 |
小林 |
「温水式の床暖房を思い浮かべてみい。
温水のおかげで、床の上はぽかぽかや」
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お湯を流した後に
掌に保温効果のある床のようなものを
載せるらしいのだが、冬の寒さでいずれ水になり、
逆に冷たくなってしまうだろう。
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北小岩 |
「広場の中央にある
小便小僧の尿から、
湯気が立っております」 |
かなり高温らしく、
ちんちんが苦しそうに上下している。
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小林 |
「痛々しいな」 |
己の股間を握った。
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北小岩 |
「屋台も出ておりますね」 |
ラインナップを見ると、
熱した付け陰毛や
おしりの割れ目用カイロなど、
冴えないものばかりであった。
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北小岩 |
「スケールの大きいものが
見当たりませんね」 |
キャー! ウォー!
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北小岩 |
「あれは何でしょうか!」 |
可動式の巨大な虫めがねが、太陽光を集めている。
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北小岩 |
「光を利用して、
あたためるのでしょうか」 |
小林 |
「違うな。
光は利用するが、焦点をあわせ、
人をターゲットにする。
みんなあちちちちっになると大変やから、
逃げ回る。
逃げ回ることであったまる。
鬼ごっこみたいなもんやな」
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動物や昆虫たちもせっせと冬支度を始めている。
それは理に適ったものであろうが、
隣町の支度は何の参考にもならない。
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