「もうすぐクリスマスやな」
「そうでございますね」
かさかさになっている野生朝顔のつるを眺めながら、
会話する先生とその弟子。
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小林 |
「昨年、お前のところに
サンタクロースは来たか?」 |
北小岩 |
「気配すらございませんでした」 |
小林 |
「俺のところには金髪全裸の
セクシーサンタが来たらしいが、
運悪く寝てたんや」 |
屁の足しにもならない虚言に、
付き合っているのは無駄であろう。
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小林 |
「お前のところに来ないのは当然やが、
悲惨な状況を
何とかしてやりたいもんやな」 |
北小岩 |
「わたくし、ここ何年間も
プレゼントをいただいておりません。
だいぶ前に毛じらみをいただいたのが
最後でございます」 |
小林 |
「それが関の山やろ。
しゃあない、贈り物の老舗と言えば、
百貨店や。
往時の勢いは失っていると聞くが、
出向いてみるかいな」 |
ゆる〜い男らは、最寄り駅から18個目の駅側にある
「下の毛百貨店」までナンバ走りで駆けつけた。
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小林 |
「ふ〜っ。
来年はお金を貯めて、電車で来ような」 |
北小岩 |
「そういたしましょう」 |
数百円のことだと思うのだが、
この人たちにとっては大金なのだ。
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小林 |
「結構人はいるようやな」 |
北小岩 |
「そうでございますね」 |
小林 |
「しかし、
買い物袋を手にしている輩は、
少ない気がするな」 |
師弟は階段を、三歩進んで二歩下がる方式で、
この上もなく非効率に上がっていく。
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小林 |
「ここは何や?」 |
北小岩 |
「布団売り場でございます。
先生はこれからの時期、
布団を7枚以上かけねば気が済まぬほど
寒がりでいらっしゃいますよね」 |
小林 |
「そやな。
ちょいとのぞいていこか」 |
女店員
さん |
「いらっしゃいませ。
どんなものをおさがしですか」 |
北小岩 |
「先生が寒がりで、
近頃は肩も凝るということで」 |
女店員
さん |
「それではこれなんか、いかがでしょう」 |
小林 |
「むっ!」 |
等身大のディスプレーがあるのだが、
仰向けになった全裸男性マネキンの上に、
山の形をした巨大なお灸がのっているのだ。
先端には火がついている。
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女店員
さん |
「寝ている間に
グングンあたたかくなりますし、
全身の凝りにも効果てき面です」
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小林 |
「効きそうなことは確かやが・・・。
俺のことはええ。
べっぴんの彼女に
プレゼントしたいんやが」 |
女店員
さん |
「もってこいのブツがございます」 |
北小岩 |
「むむむっ!」 |
仰向けになった全裸女性マネキンの上に、
2メートル近くはあろうかという、
フランクフルト状のものがのっているのだ。
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女店員
さん |
「人肌にあたためまして、
夢の一夜を過ごすことができます」 |
小林&
北小岩 |
「・・・」
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サンタクロースは
永久に来ないであろう二人が訪れた百貨店。
結局、だから何なのか。
それは誰にもわからない。
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