KOBAYASHI
小林秀雄、あはれといふこと。

しみじみとした趣に満ちた言葉の国日本。
そんな国のいとおもしろき言の葉を一つ一つ採取し、
深く味わい尽くしていく。
それがこの項の主な趣向である。



其の弐百七拾壱・・・布団

「もうすぐクリスマスやな」

「そうでございますね」

かさかさになっている野生朝顔のつるを眺めながら、
会話する先生とその弟子。

小林 「昨年、お前のところに
 サンタクロースは来たか?」
北小岩 「気配すらございませんでした」
小林 「俺のところには金髪全裸の
 セクシーサンタが来たらしいが、
 運悪く寝てたんや」

屁の足しにもならない虚言に、
付き合っているのは無駄であろう。

小林 「お前のところに来ないのは当然やが、
 悲惨な状況を
 何とかしてやりたいもんやな」
北小岩 「わたくし、ここ何年間も
 プレゼントをいただいておりません。
 だいぶ前に毛じらみをいただいたのが
 最後でございます」
小林 「それが関の山やろ。
 しゃあない、贈り物の老舗と言えば、
 百貨店や。
 往時の勢いは失っていると聞くが、
 出向いてみるかいな」

ゆる〜い男らは、最寄り駅から18個目の駅側にある
「下の毛百貨店」までナンバ走りで駆けつけた。

小林 「ふ〜っ。
 来年はお金を貯めて、電車で来ような」
北小岩 「そういたしましょう」

数百円のことだと思うのだが、
この人たちにとっては大金なのだ。

小林 「結構人はいるようやな」
北小岩 「そうでございますね」
小林 「しかし、
 買い物袋を手にしている輩は、
 少ない気がするな」

師弟は階段を、三歩進んで二歩下がる方式で、
この上もなく非効率に上がっていく。

小林 「ここは何や?」
北小岩 「布団売り場でございます。
 先生はこれからの時期、
 布団を7枚以上かけねば気が済まぬほど
 寒がりでいらっしゃいますよね」
小林 「そやな。
 ちょいとのぞいていこか」
女店員
さん
「いらっしゃいませ。
 どんなものをおさがしですか」
北小岩 「先生が寒がりで、
 近頃は肩も凝るということで」
女店員
さん
「それではこれなんか、いかがでしょう」
小林 「むっ!」

等身大のディスプレーがあるのだが、
仰向けになった全裸男性マネキンの上に、
山の形をした巨大なお灸がのっているのだ。
先端には火がついている。

女店員
さん
「寝ている間に
 グングンあたたかくなりますし、
 全身の凝りにも効果てき面です」

小林 「効きそうなことは確かやが・・・。
 俺のことはええ。
 べっぴんの彼女に
 プレゼントしたいんやが」
女店員
さん
「もってこいのブツがございます」
北小岩 「むむむっ!」

仰向けになった全裸女性マネキンの上に、
2メートル近くはあろうかという、
フランクフルト状のものがのっているのだ。

女店員
さん
「人肌にあたためまして、
 夢の一夜を過ごすことができます」
小林&
北小岩
「・・・」


サンタクロースは
永久に来ないであろう二人が訪れた百貨店。
結局、だから何なのか。
それは誰にもわからない。

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2009-12-13-SUN

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