「早いものでございますね」
庭の一隅に小石を置きながら。
「今年もあとわずか。随分たまったものでございます」
誰にともなく語りかけるのは、
弟子の北小岩くんであった。
何がたまったのかと言うと。
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北小岩 |
「わたくし、元旦より毎日、
この場所に小石を一つずつ
置いてまいりました。
350以上の石を眺めておりますと、
さりげなく一年が過ぎていくようでも、
これだけの日々の積み重ねがあったのだと、
心に沁みてまいります」 |
詩心があるのか否か。それはわからない。
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小林 |
「おう、北小岩。
何しとるんや。
エロ本の切れ端に
女の秘所でも写っとったか」 |
北小岩 |
「そうではございません。
ひとつひとつの石を眺め、
今年を振り返っていたのです」 |
小林 |
「ほほう。
それでお前は、
今年何度金玉を触ったんかい」 |
師に詩心などを求めるのは無駄であろう。
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北小岩 |
「一日平均7回ほど触るといたしまして、
一年で2500回は超える計算になります」 |
小林 |
「そやろ。
ところで忘年会には誘われとるんか」 |
北小岩 |
「皆無でござます。
一人、よっちゃんイカにこぶ茶で、
締めくくろうかと」 |
小林 |
「しゃあないな。
今から会に出張るところや。
お前も来いや」 |
二人は酔うと方向感覚を失うので、
各自方位磁石を手に、会場へと向かった。
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北小岩 |
「どんな忘年会なのでございましょうか」 |
小林 |
「俺も初めて参加するんや。
下半身に関係する会らしいから、
ウハウハな思いができるかもしれんで。
おっ、ここや」 |
『金玉忘年会』と書かれた暖簾をくぐると。
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主宰者 |
「あっ、先生よくいらっしゃました。
こちらへ」 |
座敷に上がると、
10人ほどの男が金玉を出している。
上座は空席になっている。
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主宰者 |
「では始めさせていただきます。
2009年、みなさまの金玉も
おつかれさまでした。
つらいことの多かった年だと思います。
今宵は金玉の労をねぎらい、
嫌な思い出は吹き飛ばす。
そんな会とさせていただきます」 |
お猪口が配られる。
いや、お猪口と言うよりも、
エッグカップを二つくっつけたようなものに近い。
そこに御神酒が注がれる。
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主宰者 |
「ではみなさま、
ゴールデンボール!!」 |
乾杯! のかわりの音頭がとられ、
参加者は自分の玉を御神酒にひたす。
先生と弟子も郷に入れば郷に従えで。
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参加者A |
「おう、これはなかなかの辛口ですな」 |
参加者B |
「ほんとうですな。
疲れが霧消し、憂さも晴れますよ」
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毎年参加すると、
金玉で酒の甘辛を判断できるようになるらしい。
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小林 |
「ところでなぜ上座が空席なんや」 |
参加者A |
「そろそろ到着しますよ。
かなりの大物ですよ」 |
ヒヒ〜ン!
座敷に入ってきたのは、馬だった。
馬は上座に通され。
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主宰者 |
「私たちにとって馬並は憧れ。
立派なブツは、金玉から。
今年一年、
下半身のいい思い出なしのみなさん、
金玉が被った寂しい気持ちを忘れ、
来年を迎えましょう!
ではまずは先生から!」 |
事態が飲み込めず狼狽した師は、弟子を差し出す。
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小林 |
「こいつからいきますわ」 |
金玉をモロ出しした北小岩くんは、
促されるまま馬の後ろにまわった。
馬は弟子のご立派なイチモツ&玉金を見ると
後ずさったが、
リスペクトしつつ玉を軽めに蹴り上げた。
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北小岩 |
「うお〜!
つぶれるかと思いました!!
確かに今年の憂さなど、
たちどころに吹き飛んでしまいます」 |
主宰者 |
「では先生!」 |
仕方なく馬の後方に立つが、
馬は先生の微小なブツ及び玉を見ると
侮蔑の表情を浮かべ、力の限り蹴り上げた!
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小林 |
「うお〜〜〜〜〜〜〜〜!」
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そのまま意識を失なった。
今年も金玉忘年会なるものが
各地で開催されている。
どんなに下半身に辛いことがあった年でも、
馬に蹴り上げられれば記憶がとんでしまう。
今年一年、金玉がつぶれずに存在し、
機能していただけでもよしとせねば。
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