KOBAYASHI
小林秀雄、あはれといふこと。

しみじみとした趣に満ちた言葉の国日本。
そんな国のいとおもしろき言の葉を一つ一つ採取し、
深く味わい尽くしていく。
それがこの項の主な趣向である。



其の弐百七拾七・・・交換


チャリン

「ふふふ、随分たまりましたでございます」

貯金箱を前に恵比須顔なのは、
弟子の北小岩くんである。
しかし、はたから見れば変態と思われる危険性がある。
なぜならば・・・。

北小岩 「この貯金箱は、
 10年前のわたくしのお誕生日に
 先生からいただいたものでございます。
 ブタではございません。
 お金の挿入口が、
 女性の大切な部分になっております。
 入れる瞬間、恥ずかしながら
 心が少しときめいてしまうのは、
 なぜでございましょうか」


そのようなものをプレゼントする師が師なら、
心ときめかす弟子も弟子であろう。
いずれにせよ、この二人に未来などない。

北小岩 「商店街で
 100円均一の清涼飲料水自動販売機を
 発見いたしました。
 ジュースを飲むのは
 どれぐらいぶりでしょうか。
 せっせと貯めたお金ですが、
 たまには贅沢もよいでしょう。
 しかし、困ったことに
 すべてが1円玉でございます。
 先生に100円玉に交換していただかねば」
小林 「なんやお前、どすけべやな。
 貯金箱の挿入口を、
 指でなぞっとるんかい」
北小岩 「あっ、先生。
 そうではございません。
 実はわたくしの1円玉100枚と
 先生の100円玉1枚を
 交換していただこうと思いまして」
小林 「お安い御用や。
 お前の玉を見せてみい。
 ほほう。1、2、3・・・100、
 101・・・108。
 じゃあ、これと交換やな。
 ほい」

100円玉を投げる。

北小岩 「わたくしが払ったのは
 108円ではございませんか」
小林 「甘いな。
 お前にとっては1円玉100枚と
 100円玉1枚が等価かもしれんが、
 俺にとっては1円玉108枚と
 100円玉1枚が等価や」
北小岩 「そっ、そんな」
小林 「人それぞれで、物と物の価値観は違う。
 常識や。
 俺に着いて来いや」

アホ面下げた二人が向かったのは、
隣の隣の隣町広場で行われている
物々交換会場であった。

北小岩 「初めてでございますが、
 様々な物が
 交換されているようでございますね。
 あそこでは、ナスとキュウリが。
 わたくしの目には、順当に思えますが」
小林 「そうかな。
 向こうを見てみい」
北小岩 「あっ!」

そこでは顔を赤らめたミニスカートのOLが
自分の『おなら』をビンにつめ、
作業着を着た男が持つ『窓枠』と交換するところだった。

北小岩 「『おなら』と『窓枠』が
 等価なのでございますか・・・」
小林 「そうや。ほら、ここでも」

目の前では、
『陰毛』と『伊万里焼』が換えられていた。
他にも『使用済みパンティ』と『桐の箪笥』、
『チン拓』と『米三俵』、
『フランクフルト』と『電気ストーブ』など、
自分の中の価値体系が崩れるような交換が、
そこかしこで行なわれていた。

 

小林 「どうや。
 1円玉108枚と100円玉1枚など、
 等価もええとこやろ」
北小岩 「そうでございますね。
 わたくしが間違っておりました」

人によって物の価値観は大きく異なる。
それが一番顕著に現れるのは、
物々交換の場であろう。
とはいえそんなことを利用して、
弟子のなけなしの8円を
ぶんどろうとする師だけには、
なりたくないですね。

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2010-01-24-SUN

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