チャリン
「ふふふ、随分たまりましたでございます」
貯金箱を前に恵比須顔なのは、
弟子の北小岩くんである。
しかし、はたから見れば変態と思われる危険性がある。
なぜならば・・・。
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北小岩 |
「この貯金箱は、
10年前のわたくしのお誕生日に
先生からいただいたものでございます。
ブタではございません。
お金の挿入口が、
女性の大切な部分になっております。
入れる瞬間、恥ずかしながら
心が少しときめいてしまうのは、
なぜでございましょうか」
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そのようなものをプレゼントする師が師なら、
心ときめかす弟子も弟子であろう。
いずれにせよ、この二人に未来などない。
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北小岩 |
「商店街で
100円均一の清涼飲料水自動販売機を
発見いたしました。
ジュースを飲むのは
どれぐらいぶりでしょうか。
せっせと貯めたお金ですが、
たまには贅沢もよいでしょう。
しかし、困ったことに
すべてが1円玉でございます。
先生に100円玉に交換していただかねば」 |
小林 |
「なんやお前、どすけべやな。
貯金箱の挿入口を、
指でなぞっとるんかい」 |
北小岩 |
「あっ、先生。
そうではございません。
実はわたくしの1円玉100枚と
先生の100円玉1枚を
交換していただこうと思いまして」 |
小林 |
「お安い御用や。
お前の玉を見せてみい。
ほほう。1、2、3・・・100、
101・・・108。
じゃあ、これと交換やな。
ほい」 |
100円玉を投げる。
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北小岩 |
「わたくしが払ったのは
108円ではございませんか」 |
小林 |
「甘いな。
お前にとっては1円玉100枚と
100円玉1枚が等価かもしれんが、
俺にとっては1円玉108枚と
100円玉1枚が等価や」 |
北小岩 |
「そっ、そんな」 |
小林 |
「人それぞれで、物と物の価値観は違う。
常識や。
俺に着いて来いや」 |
アホ面下げた二人が向かったのは、
隣の隣の隣町広場で行われている
物々交換会場であった。
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北小岩 |
「初めてでございますが、
様々な物が
交換されているようでございますね。
あそこでは、ナスとキュウリが。
わたくしの目には、順当に思えますが」 |
小林 |
「そうかな。
向こうを見てみい」 |
北小岩 |
「あっ!」 |
そこでは顔を赤らめたミニスカートのOLが
自分の『おなら』をビンにつめ、
作業着を着た男が持つ『窓枠』と交換するところだった。
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北小岩 |
「『おなら』と『窓枠』が
等価なのでございますか・・・」 |
小林 |
「そうや。ほら、ここでも」 |
目の前では、
『陰毛』と『伊万里焼』が換えられていた。
他にも『使用済みパンティ』と『桐の箪笥』、
『チン拓』と『米三俵』、
『フランクフルト』と『電気ストーブ』など、
自分の中の価値体系が崩れるような交換が、
そこかしこで行なわれていた。
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小林 |
「どうや。
1円玉108枚と100円玉1枚など、
等価もええとこやろ」 |
北小岩 |
「そうでございますね。
わたくしが間違っておりました」 |
人によって物の価値観は大きく異なる。
それが一番顕著に現れるのは、
物々交換の場であろう。
とはいえそんなことを利用して、
弟子のなけなしの8円を
ぶんどろうとする師だけには、
なりたくないですね。
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