KOBAYASHI
小林秀雄、あはれといふこと。

しみじみとした趣に満ちた言葉の国日本。
そんな国のいとおもしろき言の葉を一つ一つ採取し、
深く味わい尽くしていく。
それがこの項の主な趣向である。



其の弐百八拾七・・・名刺

「今日は見本を拝見できる日でございますね」

弟子の北小岩くんは若干の緊張のため、
金玉も若干張っている。

「わたくし史上初でございます」

それほど大げさなことではないだろう。
話のもとをたどる。

北小岩くんの師は、
言わずと知れたエロ本の目利きである。
目利きには目利きのコミュニティがあり、
一目置かれる存在なので、
超一級のウハウハ本を謹呈されることがある。

師はエロの所有欲が人一倍強い一方、
他の人にも自慢のエロを堪能して欲しいと願う
アンビバレントな感情を持っている。
そこで町の名士たちに、
謹呈された極上本をプレゼントして歩く。
男というしょうもない共通項があるせいだろうか。
人間のレベルの差を軽く超え、
結構仲よくなれてしまうものなのだ。

今回名士の一人が開く、
キレイどころ69人パーティに招待され、
あわよくばとの思いから、
なけなしの金をはたいて
名刺を作ることにしたのだ。

「こんにちわっしょい!」

意味もなく威勢のいい男が入ってきた。

小林 「ついに来たな」

音も無く先生出現。

名刺男 「サンプルをご所望とのことですが、
 私どものところでは、
 名刺に対する
 確固としたポリシーがございます。
 名刺は自分がどういう者なのかを
 相手に伝える役割を
 担っておりますが、
 それにしては
 現在やりとりされているブツは、
 ありきたりすぎるのです」
小林 「なるほどな。
 凡庸なものでは
 強くアピールできないわな」
名刺男 「これは一見紙に見えますが、
 超高カロリーの食物でできております。
 いざとなれば一枚食べるだけで、
 一週間は生きながらえるでしょう。
 人間、生死の境にある時に
 救ってくれた人の事は、
 一生忘れず恩に着るものです。
 消費期限は10年」
北小岩 「長きにわたり毎日
 片時もはなさずもち歩いていただければ、
 すりこみ効果抜群ですね」
名刺男 「今のはビジネスタイプの一例です。
 もちろん、女性に渡す専用もございます。
 これもまた、
 何の変哲も無い名刺に見えますが、
 水でもどすと
 グッグッとくるパンティになります」
北小岩 「なんと!」
名刺男 「それも穴付きです」
北小岩 「なんと! なんと!」

名刺男 「とはいえ、
 穴から風が入ると
 風邪をひいてしまう可能性があります。
 そこで
 あなたのお名前がついた
 人肌カイロを装着できるように
 なっています。
 いつでも大切な部分を
 守ってくれている生あたたかい男。
 それがあなたの印象となり、
 いずれビンビンな展開が
 待っていることでしょう」
北小岩 「なんだかわたくし、
 感動するとともに興奮してまいりました」

男が次に取り出したのは。

名刺男 「張り形状のものです。
 大きさは自己申告制で
 お選びいただけます」

最高級品には、真珠が埋め込まれている。
金玉の部分に氏名が書かれ、
夜光塗料で夜妖しく光るのだ。

先生は見栄を張りすぎた張り形タイプを、
弟子は穴付きパンティタイプを注文した。

マンを持してパーティに乗り込んだ二人。
翌日師弟の頬にはくっきりと手形がついていた。
結果は推して知るべしである。

 

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2010-04-04-SUN

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