「園児が画用紙に描いたような
お日さまでございます」
北小岩くんがひとりごちながら、
太陽にむかって何度もお辞儀をしている。
「こんな日は、お散歩に限ります」
前向きに10歩進むと体を180度回転させ、
次の10歩は後ろを向いたまま進む。
そして再び180度回転させ・・・
という意図がよくわからない歩き方で、
友の家に向かった。2時間半後。
「さすがに歩き酔いしてまいりました。
ああ、くらりん・・・」
どぼんちょ。
深さ1メートルのドブにはまってしまった。
「何だ、北小岩くんじゃないか」
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北小岩 |
「その声は、ビデオさん」 |
友に引っ張りあげられ、ドブ前の家に運ばれた。
ちなみにビデオさんは、
尋常ではない数の番組録画ビデオを持っているので、
敬意を込めてそう呼ばれている。
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ビデオさん |
「何か見たいものある?」 |
北小岩 |
「そうでございますね。
まだ目が回っているので、
ぱっちりと
覚めさせていただけるものは
ございますか」 |
ビデオさん |
「これはどうかな」 |
ブラウン管テレビに目をやると。
「ほんとにそれが必要なんですか!」
今にも急所を食いちぎりそうな女性が、
スーツ姿の男たちを責め立てている。
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北小岩 |
「このように異様な光景は、
わたくし初めて拝見いたしました!
いったい何が
起こっているのでしょうか」 |
ビデオさん |
「話題になったのはかなり前だけど、
やっぱり君は知らないよね。
事業仕分けといってね、
様々な事業が必要かどうかを
議論するんだ」 |
北小岩 |
「わたくし、小学一年生の頃に
髪を横分けにしていたことが
ございましたが、
世の中は横分けの時代が過ぎ去り、
仕分けの時代に突入していたので
ございますね。
ところで必要なしとなったら、
どうされるのですか」 |
ビデオさん |
「廃止、見直し、
削減に向かうんじゃない。
そうそう、
仕分けしていた女性の選挙区は
ここなので、
もうすぐ町に帰ってくる。
実演するそうだよ」 |
北小岩 |
「そうでございますか。
あっ、あそこに見えますのは
女史に違いございません。
ついていってみましょう」 |
女性は細いブルドーザーのように
グイグイ進んでいく。
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北小岩 |
「野球場でございますね。
むっ、
いきなり投手の玉を握りました!」 |
今にも急所を
食いちぎり
そうな女性 |
「あんたがたま数が多いことは、
お見通しなのよ!」 |
たま数の多い
投手 |
「コッ、コントロールが悪くて」 |
今にも急所を
食いちぎり
そうな女性 |
「そうじゃないでしょ。
あんたの金玉が3つあることは
調べがついているのよ。
ムダだから削減するわよ」 |
ブチョッ!
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たま数の多い
投手 |
「ぐえ〜〜〜っ!」 |
投手は特異体質で睾丸が3つあった。
1つはムダと判断され、握りつぶされた。
その後女性は区の会議場に出張ると。
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今にも急所を
食いちぎり
そうな女性 |
「お前がべんの立つ男だね。
そんなものは必要ないのよ。
退出なさい!」 |
こぶしを肛門にねじ込んだ。
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べんの立つ男 |
「ぎゃわ〜っ!」 |
北小岩 |
「議会に弁の立つ男は
必要なのではございませんか」 |
今にも急所を
食いちぎり
そうな女性 |
「ヤツは弁が立つのではなく、
便が立つだけなのよ!
今朝男便所で確かめたわ」
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北小岩 |
「やりすぎではありませんか。
失礼ですが、あなたさまは
自分の何かを
削減されたのでしょうか」 |
今にも急所を食いちぎりそうな女性は
目を吊り上げ、パンティを下げた。
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北小岩 |
「お毛けがございません!」 |
今にも急所を
食いちぎり
そうな女性 |
「そうよ!
天下りしていた
毛じらみがいたから、
剃ったのよ。
これでも文句あるの!」 |
北小岩 |
「毛じらみの世界にも
天下りがあるとは!
文句など
めっそうもございません!!」
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道理が通っているかは別にして、
あまりの迫力に気圧されてしまった弟子であった。
男たちは、もはや横分けなどという
悠長なことは言っていられない。
仕分けされるかどうかの絶壁に、
立たされているというべきであろう。
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