KOBAYASHI
小林秀雄、あはれといふこと。

しみじみとした趣に満ちた言葉の国日本。
そんな国のいとおもしろき言の葉を一つ一つ採取し、
深く味わい尽くしていく。
それがこの項の主な趣向である。



其の弐百九拾六・・・目

「やさしく包み込むような
 陽光でございます」

己の腕を己に回し、自分を抱きしめる
弟子の北小岩くん。
乙女であるなら、美しい絵巻かもしれない。
しかし、彼の場合は、その体勢で簀巻きにされ、
ドブ川に放り込まれるのがお似合いであろう。

「只今の時季が、
 一年で一番過ごしやすいと言えるかもしれません」

大きなあくびをひとつ。
その刹那。

「ぶぶんちょ〜ん!
 目に羽虫が入ってしまいました」

「その光景、確かに目ん玉に焼き付けたで。
 1匹ならともかく、一度に9匹入ったな」

間髪をおかず、ふにゃけた顔で登場したのは、
誰からも愛されることのない
小林秀雄先生であった。

北小岩 「先生のお目めにも9匹闖入すれば、
 9対9で野球ができるかもしれません」

近頃とみにナンセンス先生に感化され、
弟子までわけのわからないことを
のたまうようになった。
虫がうにゅうにゅしたために、
痛みをこらえきれなくなったやさ男は、
水道に走った。

北小岩 「一刻も早くわたくしのアイを。
 どばほ〜!」

蛇口を天空に向けて眼球を近づけたのだが、
そばにいた薄汚れたガキが
水量をMAXにしたのである。

北小岩 「虫は流れましたが、
 アイまで流れてしまうかと思いました。
 それはともかく、
 水無月は目に虫が入って
 仕方ないのでございます」
小林 「お前なんか、ええほうやで。
 俺のダチなんか、世紀末的や。
 探ってみよか」

二人の馬鹿が、公園をぐいぐい進む。

「ぎょわんちょ〜!!!」

できることなら聞かずにすませたい
おっさん声が轟いた。

小林 「見てみい」
北小岩 「おわっ!」

おっさんの目に赤子が入り、
足をばたばたさせている。
持ち主である、
ブラジャーのラインが透けた若奥さんが、
乱れた吐息で駆けつけた。

北小岩 「目の中に入れても痛くないと申しますが、
 どんなに愛らしい赤子であっても、
 そんなことはございませんね」

小林 「おっ、使用済みパンティが飛んで来たで」

淫らなコクのあるパンティも、
彼の目に吸い込まれていった。
持ち主である、
ブラジャーのラインが透けた小股の切れ上がった女が
駆けつけた。
赤子の時より、おっさんの苦しみの中に悦楽がある。

 
北小岩 「むっ、あれは!」
小林 「あかん! 危険すぎる!!」

高度10メートルを飛来してきたものは、
どうみても人のフンであった。

ビチョン!

当然の如く、氏の目に入っていった。
持ち主である、
ブラジャーのラインが透けた熟女が駆けつけたが、
恥ずかしさのあまりそのまま駆け抜けていった。
悦楽はない。

北小岩 「これがほんとの」
小林 「目クソやな」

水無月の一日。
穏やかな仮面の下には、
目への侵入を企てる様々なフォースが存在する。
油断するなかれ。

小林秀雄さんへの激励や感想などは、
メールの表題に「小林秀雄さんへ」と書いて
postman@1101.comに送ってください。

2010-06-06-SUN

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