「やさしく包み込むような
陽光でございます」
己の腕を己に回し、自分を抱きしめる
弟子の北小岩くん。
乙女であるなら、美しい絵巻かもしれない。
しかし、彼の場合は、その体勢で簀巻きにされ、
ドブ川に放り込まれるのがお似合いであろう。
「只今の時季が、
一年で一番過ごしやすいと言えるかもしれません」
大きなあくびをひとつ。
その刹那。
「ぶぶんちょ〜ん!
目に羽虫が入ってしまいました」
「その光景、確かに目ん玉に焼き付けたで。
1匹ならともかく、一度に9匹入ったな」
間髪をおかず、ふにゃけた顔で登場したのは、
誰からも愛されることのない
小林秀雄先生であった。
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北小岩 |
「先生のお目めにも9匹闖入すれば、
9対9で野球ができるかもしれません」 |
近頃とみにナンセンス先生に感化され、
弟子までわけのわからないことを
のたまうようになった。
虫がうにゅうにゅしたために、
痛みをこらえきれなくなったやさ男は、
水道に走った。
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北小岩 |
「一刻も早くわたくしのアイを。
どばほ〜!」 |
蛇口を天空に向けて眼球を近づけたのだが、
そばにいた薄汚れたガキが
水量をMAXにしたのである。
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北小岩 |
「虫は流れましたが、
アイまで流れてしまうかと思いました。
それはともかく、
水無月は目に虫が入って
仕方ないのでございます」 |
小林 |
「お前なんか、ええほうやで。
俺のダチなんか、世紀末的や。
探ってみよか」 |
二人の馬鹿が、公園をぐいぐい進む。
「ぎょわんちょ〜!!!」
できることなら聞かずにすませたい
おっさん声が轟いた。
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小林 |
「見てみい」 |
北小岩 |
「おわっ!」 |
おっさんの目に赤子が入り、
足をばたばたさせている。
持ち主である、
ブラジャーのラインが透けた若奥さんが、
乱れた吐息で駆けつけた。
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北小岩 |
「目の中に入れても痛くないと申しますが、
どんなに愛らしい赤子であっても、
そんなことはございませんね」
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小林 |
「おっ、使用済みパンティが飛んで来たで」 |
淫らなコクのあるパンティも、
彼の目に吸い込まれていった。
持ち主である、
ブラジャーのラインが透けた小股の切れ上がった女が
駆けつけた。
赤子の時より、おっさんの苦しみの中に悦楽がある。
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北小岩 |
「むっ、あれは!」 |
小林 |
「あかん! 危険すぎる!!」 |
高度10メートルを飛来してきたものは、
どうみても人のフンであった。
ビチョン!
当然の如く、氏の目に入っていった。
持ち主である、
ブラジャーのラインが透けた熟女が駆けつけたが、
恥ずかしさのあまりそのまま駆け抜けていった。
悦楽はない。
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北小岩 |
「これがほんとの」 |
小林 |
「目クソやな」 |
水無月の一日。
穏やかな仮面の下には、
目への侵入を企てる様々なフォースが存在する。
油断するなかれ。
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