KOBAYASHI
小林秀雄、あはれといふこと。

しみじみとした趣に満ちた言葉の国日本。
そんな国のいとおもしろき言の葉を一つ一つ採取し、
深く味わい尽くしていく。
それがこの項の主な趣向である。



其の弐百九拾七・・・マイ

「たまにはオフィス街にも、
 足を向けた方がよいですね」

世の流れとは無関係に存在している
弟子の北小岩くん。
どういう風の吹き回しか。
己と最も関係ない場所を闊歩している。

「もしわたくしが
 ビジネスマンでありましたら、
 どんなマンに
 なっていたのでございましょうか」

想像できない想像を繰り広げるのであったが。

「マン〜〜〜!」

あろうことか、
公衆の面前で禁忌な叫び声をあげてしまった。

小林 「心底いやらしい男やな。
 そんなに秘所が恋しいんか」
北小岩 「あっ、先生。
 いきなり指浣腸を、
 ドリルの動きで奥深くまで掘り進めるのは、
 お止めいただけますでしょうか」
小林 「武士はな、
 いつ何時浣腸という刃に
 襲われるかわからんのや。
 ピピッとせい」

北小岩くんは武士ではないし、
武士は気安く指浣腸などという無礼なことは
かまさないであろう。

北小岩 「それはともかく、
 先ほどからこの会社を
 窓越しに観察しているのですが、
 カラフルな水筒のような
 ミニポットのようなもので、
 ドリンクを飲まれている方が多いのです」
小林 「あれはな、
 タンブラーと言う
 携帯用コーヒーカップや」
北小岩 「タンブラジャーでございますか」
小林 「ジャの字が余計や」
北小岩 「さすがに先生は
 博識でいらっしゃいますね」

そうではない。
道端に落ちていたエロ雑誌のグラビア裏に、
流行のものとして取り上げられていたのを、
たまたま目にしただけだ。

小林 「今はな、箸にしろ何にしろ、
 マイ○○という流れになっているんや。
 エコもからんどるらしい」
北小岩 「そうなのでございますか」
小林 「ちょいと社屋に闖入して、
 べろんちょと確かめてみよか」

なぜ先生がオフィス街をぶらついていたのかは
謎だが、ここに至るまでに集めた
膨大なエログラビアで警備員を懐柔し、
すんなりと入ることができた。

北小岩 「おや?
 みなさま思い思いの便器を持って、
 トイレにいきますね」
小林 「マイ便器やな。
 高さが2メートルある便の器を
 持っとるヤツもおるな。
 高いところでほがらかに出すと、
 気持ちええんやろな」

北小岩 「マイトイレットペーパーも
 あるようでございます。
 ポニーテール付きのペーパーを
 お持ちの方もいらっしゃいます」
小林 「独特の感触を楽しむんやろな。
 あれを見ろ」

バイオリンのように腰がくびれた美人OLが、
妙な吊り革を手に玄関を出ると、
駅に向かって歩いていく。

小林 「俺の超高度いやらしセンサーが
 感応しとる。
 お前、だいぶ前に拾って
 警察に届けた500円玉、
 持ち主が現れずに返ってきたといったな。
 その金で電車に乗ろうや」

駆け足で乗り込むと。

北小岩 「むむっ!
 マイ吊り革だらけでございます!」

男は左右に
チンポ状の突起がついている吊り革を、
女は左右にブツを迎え入れられるように
へこんだ形状をした吊り革を持っている。
男がポールに吊り革をかけた。

小林 「あのOLが寄ってくで。
 マイ吊り革をヤツの隣にかけよった」

電車が揺れると、吊り革は合体した。
ガタンゴトンに合わせ、
出し入れする動作となった。

北小岩 「性愛交渉成立なのでは」
小林 「間違いない。
 知らぬうちに、
 電車も違うフェイズに突入していたわ。
 こうしてる場合やない」


二人は次の駅で電車を降り、
ゴミ捨て場に落ちていた太い針金状のハンガーで
世にも安い吊り革を急造し、
再び電車へ乗り込んだ。

先生は小股がぱっくり切れ上がった女性の
吊り革のへこみに、
粗末な吊り革を入れ込もうとした。

女性 「何すんのよ!」

なぜか女性はマイ錐を持っていて、
あたかもタコを銛で刺すように、
金玉をプツンと串刺しにしてしまった。
めでたしめでたし。

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2010-06-13-SUN

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