「たまにはオフィス街にも、
足を向けた方がよいですね」
世の流れとは無関係に存在している
弟子の北小岩くん。
どういう風の吹き回しか。
己と最も関係ない場所を闊歩している。
「もしわたくしが
ビジネスマンでありましたら、
どんなマンに
なっていたのでございましょうか」
想像できない想像を繰り広げるのであったが。
「マン〜〜〜!」
あろうことか、
公衆の面前で禁忌な叫び声をあげてしまった。
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小林 |
「心底いやらしい男やな。
そんなに秘所が恋しいんか」 |
北小岩 |
「あっ、先生。
いきなり指浣腸を、
ドリルの動きで奥深くまで掘り進めるのは、
お止めいただけますでしょうか」 |
小林 |
「武士はな、
いつ何時浣腸という刃に
襲われるかわからんのや。
ピピッとせい」 |
北小岩くんは武士ではないし、
武士は気安く指浣腸などという無礼なことは
かまさないであろう。
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北小岩 |
「それはともかく、
先ほどからこの会社を
窓越しに観察しているのですが、
カラフルな水筒のような
ミニポットのようなもので、
ドリンクを飲まれている方が多いのです」 |
小林 |
「あれはな、
タンブラーと言う
携帯用コーヒーカップや」 |
北小岩 |
「タンブラジャーでございますか」 |
小林 |
「ジャの字が余計や」 |
北小岩 |
「さすがに先生は
博識でいらっしゃいますね」 |
そうではない。
道端に落ちていたエロ雑誌のグラビア裏に、
流行のものとして取り上げられていたのを、
たまたま目にしただけだ。
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小林 |
「今はな、箸にしろ何にしろ、
マイ○○という流れになっているんや。
エコもからんどるらしい」 |
北小岩 |
「そうなのでございますか」 |
小林 |
「ちょいと社屋に闖入して、
べろんちょと確かめてみよか」 |
なぜ先生がオフィス街をぶらついていたのかは
謎だが、ここに至るまでに集めた
膨大なエログラビアで警備員を懐柔し、
すんなりと入ることができた。
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北小岩 |
「おや?
みなさま思い思いの便器を持って、
トイレにいきますね」 |
小林 |
「マイ便器やな。
高さが2メートルある便の器を
持っとるヤツもおるな。
高いところでほがらかに出すと、
気持ちええんやろな」
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北小岩 |
「マイトイレットペーパーも
あるようでございます。
ポニーテール付きのペーパーを
お持ちの方もいらっしゃいます」 |
小林 |
「独特の感触を楽しむんやろな。
あれを見ろ」 |
バイオリンのように腰がくびれた美人OLが、
妙な吊り革を手に玄関を出ると、
駅に向かって歩いていく。
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小林 |
「俺の超高度いやらしセンサーが
感応しとる。
お前、だいぶ前に拾って
警察に届けた500円玉、
持ち主が現れずに返ってきたといったな。
その金で電車に乗ろうや」 |
駆け足で乗り込むと。
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北小岩 |
「むむっ!
マイ吊り革だらけでございます!」 |
男は左右に
チンポ状の突起がついている吊り革を、
女は左右にブツを迎え入れられるように
へこんだ形状をした吊り革を持っている。
男がポールに吊り革をかけた。
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小林 |
「あのOLが寄ってくで。
マイ吊り革をヤツの隣にかけよった」 |
電車が揺れると、吊り革は合体した。
ガタンゴトンに合わせ、
出し入れする動作となった。
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北小岩 |
「性愛交渉成立なのでは」 |
小林 |
「間違いない。
知らぬうちに、
電車も違うフェイズに突入していたわ。
こうしてる場合やない」
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二人は次の駅で電車を降り、
ゴミ捨て場に落ちていた太い針金状のハンガーで
世にも安い吊り革を急造し、
再び電車へ乗り込んだ。
先生は小股がぱっくり切れ上がった女性の
吊り革のへこみに、
粗末な吊り革を入れ込もうとした。
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女性 |
「何すんのよ!」 |
なぜか女性はマイ錐を持っていて、
あたかもタコを銛で刺すように、
金玉をプツンと串刺しにしてしまった。
めでたしめでたし。
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